世界中で愛されている不朽の名作漫画『北斗の拳』。原画400点以上を展示する展覧会「北斗の拳40周年大原画展 ~愛をとりもどせ!!~」が森アーツセンターギャラリーにて開幕した。
文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部
愛のために生きた男たちの物語
1983年9月13日、「週刊少年ジャンプ」41号にて『北斗の拳』の連載がスタートした。原作・武論尊、作画・原哲夫による連載は1988年35号まで続き、コミックスの世界累計発行部数は1億部を突破。1984年にスタートしたテレビアニメは常時20%超の高視聴率を記録。アメリカの金融会社TITLEMAXが2019年に発表したゲームやグッズなどを含めた『北斗の拳』総収益は218億ドルで、日本円に換算すると約2兆9000億円に上るという。
かく言う記者は、まさにリアル北斗の拳世代。連載開始は中学3年生の時で、当時の盛り上がりは今も鮮明に覚えている。友人と「南斗最後の将は誰か?」といった議論を繰り返したし、クラスメイトの経絡秘孔(肉体に散在するツボで、ここを突かれると人間は肉体内部から破壊されてしまう)を突こうとしたことも、逆に突かれたこともあった。オーラという言葉が一般的な用語として定着したのも『北斗の拳』がきっかけだったように思う。
『北斗の拳』の内容を簡単に説明すると、ジャンルは世紀末バトルアクション漫画。199X年、世界は核の炎につつまれ、あらゆる生命体が絶滅したかにみえた。だが人類は生き残り、世は再び暴力が支配する時代に。そんな激動の時代に暗殺拳法・北斗神拳第64代目正統伝承者である主人公ケンシロウは、奪われた恋人ユリアを取り戻すために兄弟やライバルたちと邂逅。時には友情を育みながら、時には死闘を繰り広げながら波乱の時代を生き抜いていく。
80年代を象徴する漫画『北斗の拳』は、連載開始から今年で40周年。節目の年を記念し、六本木・森アーツセンターギャラリーにて「北斗の拳40周年大原画展 ~愛をとりもどせ‼~」がスタートした。展示されているのは、第1話からラオウ編最終話までの136話約3000ページから選ばれた原画400点以上。その中には連載当時描かれた彩色画や、本展のために原哲夫が新たに描き下ろした新作3点も含まれている。
原画の圧倒的迫力に感動!
400点以上が集められた原画、そのセレクトが実に見事だ。「ケンシロウが同じ女を愛した男シンのために墓をつくる場面」「南斗水鳥拳を使うレイがラオウから死の一撃を受ける場面」「帝王サウザーが“お師さん…”のセリフとともに死にゆく場面」など、胸熱エピソードがきっちりと押さえられている。会場に並んだ作品を見ながら、「このシーン、好きだったよな」との思いが幾度となく込み上げてきた。
新たな発見は、「原画のクオリティはここまで高かったのか」という驚き。週刊少年ジャンプやコミックスで読んでいた時から「原哲夫先生は絵がうまく、臨場感がすごい」と感じていたが、生原画は圧倒的な迫力。ディテールの描き込みが予想以上に緻密で、仕上がりが美しい。連載開始当時、原先生は22歳の若さだったと聞いて、さらに驚いた。
展示されている原画はすべて撮影OK。好きなキャラやシーンを撮影していたら、莫大な数になってしまった。会場にはSNS映え抜群のフォトスポットも用意されている。特に展覧会開催に先駆けて行われたクラウドファンディングで製作費を集めてつくられた「サウザーの玉座」と「種モミじいさんの墓」は要注目。ちなみにクラウドファンディングには予想を超える反響があり、目標金額200万円に対し2000万円以上のお金が集まったという。
原作・武論尊、作画・原哲夫からのメッセージ
展覧会のオープニングイベントには原作・武論尊、作画・原哲夫の両氏が登場。原哲夫は「美術館という格式ある場所で『北斗の拳』の原画が飾られるとは想像もしなかった。若い頃は自分ひとりの力で作品を描いていると思っていたが、今振り返るといろんな人に助けられて生まれることができた作品なんだと改めて気づかされた」とコメント。
一方の武論尊は「僕にとって『北斗の拳』は“血と汗と酒”の結晶。でも、原さんにとっては“血と汗と涙”の結晶。僕が酒を飲んでいる間に、原さんは必死に絵を描いていた。この展覧会は原哲夫ワールドのすごさが分かる内容です。ぜひ会場に足を運んでください」と話した。
『北斗の拳』のファンはもちろん、作品に触れたことがない人にもぜひ見てほしい展覧会。混乱の時代を彩った様々な「愛」の物語に、感情が揺り動かされる。
©️武論尊・原哲夫/コアミックス1983