《パリ市》を筆頭に見逃せない作品が集結

 まずはキュビスムの生みの親であるピカソとブラック。この2人の画家は1907年に出会い、お互いセザンヌに感銘を受けていたこともあり即座に意気投合。約5年間にわたって、日々顔を合わせ、意見を交換し、作品を比較し合った。そのため2人の作品はよく似ており、評論家から「どちらが描いたか見分けがつかない」と言われることもあった。当時の2人の関係についてブラックは後に「私たちはザイルで結ばれた登山者のようでした」と回想している。

 ジョルジュ・ブラック《大きな裸婦》は、ブラックがピカソ《アヴィニョンの娘たち》に触発されて描いた作品。西洋美術の伝統的な裸婦像をベースにしながらも、遠近法や写実性を排した新しい表現が試みられている。とはいえキュビスム草創期の一点で、具象性はまだ強く残る。伝統と革新の合間を行くようなアンバランスな仕上がりに、不思議なおもしろさを感じる。

 ロベール・ドローネー《パリ市》は、展覧会のハイライトといえる作品。横幅が4mにおよぶ大作で、ポンピドゥーセンターの所蔵品を代表する一枚としても名高い。エッフェル塔をはじめパリの名所や街並みを背景に、ポンペイの壁画の三美神が描かれている。画面は分割・再構成され、まさにキュビスムらしい作品。だが、ピカソやブラックの作品にはない色彩が取り戻されている。

ロベール・ドローネー《円形、太陽 no.2》 1912-1913年 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne - Centre de création industrielle (Don de la Société des Amis du Musée national d’art moderne en 1961)
© Centre Pompidou, MNAM-CCI/Georges Meguerditchian/Dist. RMN-GP

 実はこのドローネーは「サロン・キュビスト」と呼ばれる一派。ピカソやブラックが作品を画廊のみで展示したことから「ギャラリー・キュビスト」と呼ばれたのに対し、サロン・キュビストの画家はサロン・デ・ザンデパンダンやサロン・ドートンヌなどの美術展で作品を発表した。関係者だけでなく、一般市民にもキュビスムの絵画に触れる機会を作ったのである。ドローネーの作品は明るい色彩と鑑賞機会の増加により、幅広い人気を獲得した。

 展覧会ではロベール・ドローネーの作品とともに、彼の妻であるソニア・ドローネーの絵も出品されている。この奥さんの絵がまた素晴らしい。ソニア・ドローネー《バル・ビュリエ》はパリのダンスホールを主題にしたもの。華やかな色彩にあふれた画面にはリズムがあふれ、音楽が聴こえてくるよう。ちなみにドローネー夫妻はパリのダンスホールで、アルゼンチンからもたらされたばかりの官能的なダンス、タンゴを踊ったという。