パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって生み出され、20世紀美術の出発点となったキュビスム。パリ・ポンピドゥーセンターの所蔵品を中心に約140点の作品を紹介する「パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展―美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ」が、国立西洋美術館で開幕した。

文=川岸 徹 

ロベール・ドローネー《パリ市》 1910-1912年
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne - Centre de création industrielle (Achat de l’ État, 1936. Attribution, 1937)
© Centre Pompidou, MNAM-CCI/Georges Meguerditchian/Dist. RMN-GP

キュビスムとはいったい何か?

 難解でわかりにくく、親しみを感じられない。キュビスムに対して、そんな印象をもっている人も多いのではないか。だが20世紀初頭、厳密にいうと1907年から1917年頃までの約10年間、キュビスムは世界的なムーブメントを引き起こし、その後の芸術に大きな影響を与えた。

 シャガール、モディリアーニ、藤田嗣治……。キュビスムの画家としてのイメージがないアーティストたちも一時的にキュビスムに夢中になり、キュビスム風の作品を発表した。本展の音声ガイドの中で美術評論家の山田五郎氏はそうした状況を「キュビスムは誰もが一度はかかる“はしか”みたいなもの」と解説している。

 さて、このキュビスムとはどんな芸術運動なのだろうか。キュビスムとはパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって試みられた新しい表現方法で、出発点になった作品は1907年にピカソが発表した《アヴィニョンの娘たち》といわれている。具体的な物や空間をそのまま描くのではなく、描く対象を幾何学的な面や形に分解。そのバラバラになった面や形を再び組み合わせて立体的に再構成する。キュビスムはルネサンス以降の伝統であった単一視点の遠近法を捨て去った“美の大革命”だったのである。

 ちなみにキュビスムという言葉は、「キューブ(立方体)」と「イスム(主義)」を組み合わせた造語。1908年にブラックの作品を見た評論家が「立方体だらけ」と評したことに由来している。

 ピカソとブラックによって成立したキュビスムは、時間の経過とともに進化・細分化を見せていく。1912年頃には新聞の切り抜きや布の端切れを作品の中に貼り付ける「総合的キュビスム」が登場。フェルナン・レジェとフアン・グリスは数式によってさらに美的な調和を生み出すことができると考え、「セクション・ドール(黄金分割)」を提唱した。ロベール・ドローネーは「オルフィスム」を主導。フォルムの追求のために色彩を犠牲にしてきた従来のキュビスムを脱却し、カンヴァスに明るく輝くような色彩を取り入れた。

フェルナン・レジェ《婚礼》 1911-1912年
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne - Centre de création industrielle (Don de M. Alfred Flechtheim en 1937)
© Centre Pompidou, MNAM-CCI/Philippe Migeat/Dist. RMN-GP

 こうしたキュビスムの誕生、成立、進化の歴史を、14の章立てで丁寧に解説しているのが「パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展―美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ」だ。絵画を中心に約140点の作品が展示され、その大部分がポンピドゥーセンターの所蔵品。50点以上が日本初公開になる。