テート美術館のコレクションから「光」をテーマに作品を厳選し、約120点の作品を紹介する展覧会「テート美術館展 光 — ターナー、印象派から現代へ」が国立新美術館で開幕。絵画、写真、彫刻、素描、キネティック・アート、インスタレーションなど多様な作品から、アーティストたちがどのように「光」の表現に挑んだのかを検証する。
文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部
テート所蔵の名品約120点が世界を巡回
イギリスを代表する名門美術館として知られる「テート」。現在、テートは4つの国立美術館を有する連合体になっており、ロンドンにて「テート・ブリテン」「テート・モダン」、地方にて「テート・リバプール」と「テート・セント・アイヴス」を運営している。
コレクションの総数は7万7000点以上。4つの美術館が共有するものとして扱われ、定期的に美術館の間でコレクションの移動が行われている。
そんな膨大なテート・コレクションから、「光」をテーマに作品を集めて紹介するのが展覧会「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」だ。2021年に上海で開幕し、その後、ソウル、メルボルン、オークランドへ巡回。日本は最終会場となり、国立新美術館で10月2日まで開催された後、大阪中之島美術館へ巡回する。世界巡回展ではあるものの、展示構成は各都市の雰囲気や予想される客層に合わせてアレンジ。日本展では他の会場にはなかった12点の日本限定作品も出品されている。
展示構成のセンスの良さが光る
さてさっそく、国立新美術館での「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」を鑑賞。率直な感想は「センスのいい軽快なリズムを感じる展覧会」。会場には18世紀末から現代まで約200年間に制作された約120点の作品が時系列で並ぶが、随所に2000年以降に生まれた現代アートが挟み込まれ、これが心地いいアクセントを生み出している。
例えば、「精神的で崇高な光」。世界を新たに作り直すために神が洪水を引き起こし、荒廃した大地に光が差し込む風景を描いたジェイコブ・モーア《大洪水》、同じく洪水後の希望ある世界を幻想的な光で表現したジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《陽光の中に立つ天使》。
宗教を主題にした重厚な作品が並ぶ空間に、現代彫刻家アニッシュ・カプーアによる《イシーの光》が設置されている。外から見ると、淡く明るい色で塗られた卵型のオブジェ。その内部はダーク・レッドに彩色された仄暗い空間。光ある世界は闇を抱えている。そんな読み解きができるだろう。
本展開催に合わせて来日したテート美術館アシスタントキュレーターのマシュー・ワッツ氏は、「アーティストは、時代を超えて同じアイデアを、異なるメディアを使って表現している。合わせて鑑賞することで、美術はより身近なものになる」と語る。
その言葉通り、様々な時代の“光アート”が集結した今回のテート美術館展。「時代ごと・年代ごと」という縛りがないこともあって、一般的な美術展のようなカチッとした展示ではない。むしろ今をときめくスタイリッシュなギャラリーのような洒落たムードだと感じた。こうした展示構成はセンスが重要だが、それを実現できるのが名門テートの実力なのだろう。