ポルシェの楽しさにあふれた遊園地

 現代のクルマは多機能ですから、日常的な使い途の中では全部を使い切れていないかもしれません。それらを試してみるのに、こうした専有コースでの走行は良い機会となるでしょう。

 また、購入検討者による試乗も今まではディーラー単位で、それも高速道路や一般道で行われていましたが、ここならば多角的かつ安全に行えて、有意義なものとなるでしょう。

 ボディカラーや装備などの比較検討もカタログやモニター画面ではなく、実車でリアルに行うことができます。

これだけのポルシェを同時に見ることはそうそうあるまい……

 ドライビング体験の料金は90分単位で、718ケイマンの4万7000円から911 GT3の10万9500円まで車種に応じています。ラグジュアリースポーツの911ターボと超硬派な911GT3の2台を比較するプログラム(14万円)や、911ターボとタイカンターボとでエンジン車とEVを比較するプログラム(11万5000円)もあります。カイエンやマカンなどのSUVでは、オフロード走行のプログラムもあります。サイトから予約すれば、オーナーでなくても誰でも利用できます。

 さらには、ラップタイムなどのデータを分析し、マンツーマンの指導を受ける240分間の上級者向け「アクセラレートプログラム」(21万円から)もあります。

 プログラムを受講しなくても、カフェやレストランなどを利用することも可能です。

ポルシェのアイコニックなスポーツカーにも出合える

 富士や鈴鹿などの既存のサーキットはレースを行うことが大前提となっています。コースをコンマ1秒走るために切磋琢磨しようという人々が集まっている場所です。

 それに対して、ポルシェエクスペリエンスセンター東京では参加者の運転スキルを上げ、より深くクルマを知って楽しむために造られ、運営されています。レースを行わない代わりに、より間口の広い楽しみ方が用意されています。モータースポーツとは一線を画し、ドライビングのリアル体験を存分に味わえるこのような施設は今までありそうでありませんでした。自動化やシェアリングなどが進み、運転のリアル体験が遠ざからざるを得なくなる現代だからこそ、存在意義がこれからより高まっていくことでしょう。

 創業以来、モータースポーツ活動に精力的に取り組み続けているポルシェが運営しているところが意外でもありながら、同時に変革しつつある時代を見事に捉えている点もまたポルシェらしいなと大いに納得させられました。ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京が世界で9番目にオープンし、近々10番目のトロントがオープン予定だと聞くと、広く支持を集めていることがわかります。

多機能化するクルマを使いこなせ!

 そして、もうひとつの大きな意義が顧客とのリアル体験を通じたコンタクトポイントとしての存在です。

 最新のクルマは高性能で高機能、そして多機能です。クルマのことをわかって購入したつもりでも、日常で使ってみると、使い方や具体的メリットがわからないことが出てきます。例えば、ACC(アダプティブクルーズコントロール)やLKA(レーンキーピングアシスト)あるいはLCA(レーンチェンジアシスト)などの運転支援機能の使い方は最初に誰かが見本を示してくれないと使い方も働きぶりもわからないのではないでしょうか?
 僕の周囲でも、「使いたいけど、使い方がよくわからない」とか、「メリットがわからないので、使わない」という人々がいるほどです。

 また、安全への寄与の大きさや疲労の少なさなどの効果の大きさも、高速道路や自動車専用道などをある程度の長距離を走ってみて初めて認識できるものです。

 納車された時のセールスマンからの型通りの短い説明だけではわかりません。また、今までのセールスマンやディーラーの仕事は、納車が“ゴール”になっています。もちろん、点検や車検、修理などを顧客から依頼されれば対応し、仕事として大きな売り上げにはなっています。しかし、販売したクルマに内在されている機能や装備をすべて体験して知ってもらう仕事はまったく別の種類のものとして発生して、今までは存在していませんでした。納車が“スタート”になるのです。

 運転支援機能だけでなく、エクスペリエンンスセンターの周回コースを走ることで僕にPDKの優秀性を再認識させてくれ、惚れ直させてくれたように、実車に触れることができて、購入したクルマの価値を再認識させてくれるような施設が、まさにポルシェ・エクスペリエンスセンターです。そうした施設を自動車メーカー自らが企画し、設立&運営する必要が生じている時代になったのです。

 コースこそ備わっていませんが、メルセデス・ベンツが東京・六本木にブランド体験施設の「メルセデス・ミー」を、BMWが台場に総合ショールーム「BMW Group 東京ベイ」に構えているのは、僕には狙いとするところはポルシェと変わらないように見えます。スポーツカーとSUVの専門メーカーだから、ポルシェは走る体験を重視してエクスペリエンスセンターのコンセプトの主軸に据えたのでしょう。

 いずれにしても、顧客なり顧客候補者が実車にリアルに触れられて、その価値を納得いくまで体験できる施設が求められているのです。トヨタがBMW Group 東京ベイの斜め前で運営していたショールーム型テーマパークの「メガウェブ」や、それ以前の池袋の総合ショールーム「アムラックス」などを閉めてしまったのはとても残念なことです。ホンダも青山ビルの建て替えを発表したばかりですので、新しい本社ビルが完成するまでの間の1階のショールームの代替え施設が求められるところです。

 ポルシェ・エクスペリエンスセンターを自分の718ボクスターで走れたのは楽しく、有意義な体験となりました。

 そして、ポルシェをはじめとする自動車メーカーがこのような体験型の施設を造って運営しているのも、その動機は単なる販売促進だけにとどまらず、高度化していっている最新のクルマと表裏一体にあるものだと考えることもできた酷暑の一日でした。

(走行中の画像は特別な許可を受けて撮影されたものです)