「ほんとうに助けを必要としている人を助けたい」

「日本スケート連盟の方から、『カップル競技の支援をお願いしたい』と打診がありました」

 2014年のソチオリンピックで団体種目が採用されることが決定していた。団体でのメダルを目指すにはアイスダンスやペアの強化の必要があった。

 カップル競技は、練習するリンクの環境面が整備されていない、トップレベルの選手を指導できるコーチがいないといったことから、シングルの選手以上に海外を拠点に活動する必要性があり、なおさら資金面の充実が鍵を握る。だが、働きかけても支援しようという企業は現れなかった。そこで木下グループに依頼があった。

 支援する企業が出てこなかった。それもまた、カップル競技の状況を示していたが、ではなぜ、木下グループは支援しようと考えたのか。

「『どこもやらないならうちが』ということで引き受けることになりました。フィギュアスケートに限らず、すでに誰かがサポートしているところではなく、陽の目を見ない、ほんとうに助けを必要としている人を助けたい、そういう考えが弊社にはあります。カップル競技に対しても、同じ理由から始まりました」

 同社が支援している他競技を見渡せば、オリンピックなどでの活躍もあって認知度の高い卓球は別として、馬術やセーリング、サーフィン、そして水泳の中でもオープンウォータースイミングの選手というように、注目度が高くない競技が並ぶ。それも同社の姿勢を示している。

 三浦と木原を巡るエピソードも、それを示唆する。

 フィギュアスケートでは応援する選手の名前などを入れたバナータオルを会場で掲げて応援する文化がある。昨シーズン、三浦と木原のバナータオルが製作され、販売された。

「売り上げはそのまま全部、2人に渡しています。製作費についてはこちらで負担しているので、作れば作った分、売れれば売れた分、会社としては赤字がふくらんでいくことになります」

 そして続ける。

「でも、元々2人を応援するために始めたことなので、チャリティーという思いが強いです。購入した方が買った金額の分、2人を支援することにもなります。2人もバナータオルを持って応援してくれることにとても喜んでいて、特に世界選手権の会場で掲げられているのを見て、『ほんとうに力になりました』と話していました」

 その世界選手権は、同社でフィギュアスケートの支援に携わってきた人々も会場で見守っていた。金メダル獲得に感無量だったという。

「2人にはいろいろなアイデアをもらいながら、『こういうのはどうかな』と話し合いながら、今シーズンのバナータオルも製作中です。2人をはじめ、今後もカップル競技の支援を継続していくつもりです」

 支援は、新たな形をとりつつもある。

 選手を育成する「木下アカデミー」の創設だ。(続く)