『旗本退屈男』の衣裳を制作、映画の黄金期を支える

「甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性」展示風景

 映画界での甲斐荘は、おもに衣裳考証家として現場を支えた。近年の研究によると、甲斐荘が携わった映画は東映、松竹、大映合わせて236本。2019年には、映画『旗本退屈男』シリーズの衣裳が太秦の東映京都撮影所で発見され、甲斐荘の功績をより深く知ることができるようになった。

 展覧会では映画衣裳と映画ポスターを合わせて展示。メインは新発見の『旗本退屈男』シリーズで、市川右太衛門演じる主人公・早乙女主水之介が身につけた豪華絢爛な着物が紹介されている。着物の伝統を守りながらも、西洋風、前衛風など多彩な要素を加味した斬新なデザインは、スクリーンで映えることを意識して制作されたのであろう。

 ちなみに、これらの衣裳は2019年にパリで開催された『映画「旗本退屈男」幻の衣裳展』でも公開された。会場では映画の斬り合いのシーンが流され、パリの子どもたちはそれに合わせて、チャンバラを楽しんだという。

 最後にもうひとつ、展覧会では甲斐荘が生涯貼り替え続けたという「スクラップブック」にも注目してほしい。女性の裸体、人気俳優、スポーツ選手、仏像の写真……などがびっしりと貼り込まれ、甲斐荘の頭の中を覗いているような気分になる。喜多川歌麿を理想に掲げ、岸田劉生を強く意識していたという甲斐荘。スクラップブックには彼らの作品も登場する。