「選手との関係は、イメージではだいたい3年と自分では思っています。1年目は選手につきながら、2年目はいろいろな情報を共有しながら、3年目はだんだん自立して自分でいろいろやっていけるように、と考えています。選手はプロになる方もいれば違う社会に出ていく人もいる。自分自身で選択肢を持って、しっかり決断して進んでいくわけです。ところが、常に付き添う人がずっといると甘えが出てしまうんじゃないか、そういう考えもあって、自立していってもらいたいという思いが根底にあります。もちろんオファーがあれば契約の延長はさせていただきます」

 さらに理由を語る。

「医学的知識があると、固定観念が絶対に出てくる。でも私自体は固定観念がもともとそんなにありません。なぜかというと、今の医学で絶対にこうだ、となっていても変わるわけです。例えば野球でも、投手は肩を冷やしたらだめだと言われていた時もありながらも、いつの間にか冷やした方がいいということになった。やっぱり変わっていく。時として自分の知識だけでこうだ、というのはアスリートにとって失礼な部分もあるのかなと思います。アスリートは自分の人生をかなり競技に注いでいて、競技で到達した地点というのは選手本人と、周りの方がつないできたものです。簡単にそれを切りたくないという思いもあります。

 本人が納得したほうが絶対に頑張ると思うんです。納得しない限りは無理やりやったとしてもあんまり効果がないという考えもあります」

 

選手の「芯」を知ること

 そうしたスタンスを持つ出水が、大切にしていることがある。選手の「芯」を知ることだ。

「昌磨は明確に考えを持っているし、自分自身のスタイルもしっかりしている。サポートを始めてから話を聞いていくうちに、彼の『芯』がどこにあるのかを知ることができました」

「芯」を言い換えればその選手の根幹をなずものとなるだろう。

「芯」を知ることを据えることをはじめ、出水の一連の言葉にうかがえるのは、身体のサポートやケアなどにとどまらないスタンスを持っているであろうことだ。

 出水ならではのアプローチはどのようなものであるのか、どう培ってきたのか、何が信頼を得るのか——まずはトレーナーとしての歩みをたどり、フィギュアスケートの世界にかかわってから出会った選手たちとの数々の思い出、そして出水が見た宇野昌磨の「芯」を追ってみたい。

 

出水慎一(でみずしんいち)スポーツトレーナー。国際志学園 九州医療スポーツ専門学校所属。 専門学校を卒業後、フィットネスクラブに勤務。18歳からスポーツ現場や整骨院で修行を続け、その後、九州医療スポーツ専門学校で学び柔道整復師の資格を取得。スポーツトレーナーとして活動する中でフィギュアスケートにも深くかかわり、小塚崇彦、宮原知子、宇野昌磨のパーソナルトレーナー等を務める。2018年平昌、2022年北京オリンピックにも参加している。