(取材・文:松原 孝臣 撮影:積 紫乃)
関係の強さを感じさせるキスアンドクライ
演技を終えたあと、得点が出るのを待つスペース「キスアンドクライ」。そこに座る選手やコーチがときに喜びから、ときに悔しさから、笑顔や涙の表情を見せる。フィギュアスケートではおなじみの光景だ。
主だった大会であれば、選手とコーチが座るのが常だ。選手とコーチの2人、あるいは選手にコーチ2名がついていることもある。
でも宇野昌磨の場合は異なる。例えば2023年3月にさいたまスーパーアリ―ナで行われた世界選手権。真ん中に宇野、宇野の左にコーチのステファン・ランビエール。そして右に座っていたのは、コーチではなかった。
2023年3月25日、世界選手権、男子シングルで優勝を決めた宇野昌磨とコーチのステファン・ランビエール(左)と、トレーナーの出水慎一(右) 写真=長田洋平/アフロスポーツ
「おそらく初めてなんじゃないかと思います」
自身でもそう語るのは、トレーナーの出水慎一だ。出水の言うように、少なくとも主要大会でトレーナーがキスアンドクライのスペースに座っているケースはこれまでなかったのではないか。
でも出水が宇野の隣にいるのは、2022年の北京オリンピックで初めてキスアンドクライについて以降、もはや見慣れた光景だ。それは、宇野にとっての出水の存在がどのようであるのかを示している。
選手とトレーナーが信頼関係を築くのは、むろん、珍しいことではない。それを前提としても、関係の強さをキスアンドクライは感じさせる。
