息の合った親子の料理合戦が繰り広げられる
店に立つのは、お母さんの五十嵐ミサヲさんと息子の博文さん。子供の頃から店を手伝っていた博文さんは、自然に店を継ぐと決めていたという。父のひとことで京都の名店へ修行に出され、7年後に料理人として戻ってきた。そこで今やお母さんが作るおばんざいと、料理人の博文さんがてがけるメニューが共演する面白い店に進化している。
ちなみにお父さんはご健在で、博文さんに店をまかせて、同じガード下で別の店を始めてしまったというなかなかの自由人だ。『酒房わかば』に入れない時は、そちらでウエイティングもできるという仕組みも楽しい。
店に入ると、カウンターの上におばんざいが行儀よく並んでいる。端正な子芋の煮っ転がし、せん切りの山盛りの長芋、大根の煮物、きゅうりの酢のものなど、お母さんが「ふだん家で食べてるものよ」という料理が並ぶ。
仕事の分担は息子の博文さんが大半かと思いきや、「9割は母、1割が僕」と博文さんはあっけらかんと言い放った。博文さんが握り寿司や刺身などを担当、それ以外はすべてベテランのお母さん、ミサヲさんが手がけている。
「今日は何を作ろうかしらと考えるのが1番楽しいのよ」。
忙しそうに働きながら、とてもうれしそうにお母さんはそう語った。
「何曜日にはあの人が来るから大好きなこれを作っておこうとか、今日は甘いものが好きなあの人がくるから、煮豆を煮ておかなくちゃとかね」。
お客さんの顔を思い浮かべながら、本日の料理を考えるのがなによりのお楽しみ。そのきめ細かさが、長年の常連さんが多い理由のようだ。