かつて3路線が落ち合っていた備後落合駅

 スイッチバックを体験したあとは、「奥出雲おろち号」で終点の備後落合駅へ。この駅には名物ガイドの永橋則夫さんがいらっしゃいます。

 備後落合駅は今では寂しい無人駅になっていますが、JR西日本の広島、岡山、米子の3支社の境界に当たり、かつては三つの路線が落ち合う、とても賑わった駅だったそうです。永橋さんは元国鉄機関士で、栄えていた当時の備後落合駅をよくご存じで、その頃の様子を訪れる観光客に解説してくださるのです。

永橋則夫さん

 当時の備後落合駅には、機関士さんなど100人以上の方々が常駐して働いていたんだとか。その方たちが住む社宅やさまざまな施設もあったのですが、今では「奥出雲おろち号」の乗客や、鉄道ファンしか訪れない秘境駅に……。

 幼い頃から駅の近くで育ち、この地でずっと働いてきた永橋さんは、なんとか木次線の廃線を食い止められないかと考えて、5年ほど前からボランティアでガイドを始められたそうです。

 栄えていた頃の備後落合駅のジオラマを見せていただきながら、永橋さんのお話に耳を傾けると、まるで当時の賑わった駅の情景が目に浮かぶようでした。「自分の生涯をかけて、備後落合駅を見守り続けたい」とおっしゃる永橋さん。駅に対する深い愛や思いをお聞きして、思わず胸にこみ上げるものがありました。

 ジオラマはいつでも見られるわけではないようですが、「奥出雲おろち号」が折り返す20分ほどの間や、永橋さんが駅にいらっしゃる時には、解説をお聞きすることができますよ。

 

出雲坂根駅の延命水や亀嵩駅の駅そばもおすすめ

 折り返しの「奥出雲おろち号」は出雲坂根駅で18分停車するので、ぜひ降りてみましょう。「延命水」というおいしいお水の泉源が駅構内にあるので、ペットボトルや水筒を持参するといいですよ。

 言い伝えでは100歳を超えたタヌキがこの水を飲んでいたといわれ、水汲み場にはかわいいタヌキの置き物も。

「奥出雲おろち号」が運行している日限定で、駅の横のテント売店「延命の里」で焼き鳥を焼いています。この焼き鳥も甘いタレにジューシィなお肉で絶品!

亀嵩駅の扇屋でそばを打ってらっしゃる杠(ゆずりは)哲也さんと奥さま

 また、亀嵩駅で途中下車するのもおすすめです。ここは松本清張さんの小説『砂の器』の舞台になった場所として知られる駅。ファンの人もたくさん来られているようです。

 亀嵩駅には駅舎内に「扇屋そば」さんというおそば屋さんが入っています。名物の「割子そば」は、石臼で挽いた粉を手打ちで仕上げたおそばで、歯ごたえとそばの香りがしっかり感じられますよ。以前、秋の寒い時期に訪れたときは温かいそばにとろろと卵の入った「山月そば」をいただいたのですが、こちらもまろやかな味で身体の芯まで温まる美味しさでした。

 折り返しの「奥出雲おろち号」が亀嵩駅に着くのは、14時45分なのでお昼には少し遅い時間なのですが、ぜひ下車してお店で食べていただいたきたいです。

12年前に訪れた時のサインも飾ってくださっていました

 また、「亀嵩駅そば弁当」という駅弁も販売していて、予約をすれば駅のホームまで届けてくださり、「奥出雲おろち号」の車内で食べることもできますよ。

 亀嵩駅で降りた場合、滞在時間は1時間20分ほど。亀嵩駅発16時6分の普通列車で宍道駅まで戻れます。木次線は本数が少ないのでいくつもの駅で途中下車することが難しいのですが、特徴のある駅が多いのでリピートするなどして、それぞれの駅を楽しんでくださいね。