不安になると前へすすむ

 辻村氏の初めての展覧会は、30歳の時に自宅で開催された。それが反響を呼び、百貨店や東京への進出に繋がったのだ。さらに現代美術家、杉本博司氏の企画で、海外で初となる個展をNYで開催したのを皮切りに、イギリス、イタリア、フランス、ベルギー、ドイツなどで個展を開催していった。

「不安になりそうになると、ぐっと前にすすむんです。思い切りが良いのかもしれません」

 欧州で滞在制作も始め、並行して絵画、書などにも取り組んできた。2006年にはベルギーのインテリアデザイナー、古美術品収集家のアクセル・ヴェルヴォールト氏が水間を訪れ、翌年のヴェネチア・ビエンナーレでのコラボレーション展が実現した。

 いまや「陶芸家 辻村史朗」の作品は、ニューヨークのメトロポリタン美術館など世界の高名な美術館や博物館に収蔵され、ドナルド・キーン、エリック・クラプトン、ロバート・デニーロなどが顧客に名を連ねている。

「最近は米国の有名企業の創業家の方が熱心に買ってくださっていて、“1時間くらいひたすら触ったり眺めたりして過ごしている” って言ってくれました。買ってくれた人と通じ合う“そういうものをつくっているんやな” と実感できることが嬉しい」

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 海外での評価が国内評価をさらに高め、人間国宝の呼び声も高いが、本人は意に介さずといった様子だ。

「やりたいことをずっとやってきている。形状をつくりあげる技術だけじゃないものがある。生き方なんでしょうね」

 数年前にはがんも患ったが周囲の助けもあって無事に回復した。

「前向きな人間やと思います。陶芸家はモノをつくる、という職業。モノをつくっていれば病気になっても大丈夫だと思える」

 辻村氏は、今日もモノづくりとともに生きている。