藤原 誰かキュレーターみたいな人がいて、今月号のこの記事は面白い、とかまとめてくれると読みやすそうですね。
新谷 藤原さんは最近、海外の老舗ブランドの商品をリノベーションというか、アップデートさせるような仕事が多かったと思いますが、そういった仕事は楽しいですか?
藤原 老舗ブランドとの仕事はやりがいというか、変えがいがありますよね。ただできる限り自分勝手にならず、その枠内でやれることをやるように心がけています。
新谷 アプローチが職人肌ですよね。先方の要望をきめ細かに汲んだうえで、ほどよいところに格好よく落とすという。それでいて今日着ているロロ・ピアーナのセーターなんて、穴だらけじゃないですか(笑)。突き詰めていくと、センスとしか言いようがない。
藤原 穴が空いているセーターは、GAPでやっても普通なんですが、ロロ・ピアーナでやるから意味がある。そういういい塩梅を探るのが面白いんです。
新谷 私としても、創刊100周年を迎えた『文藝春秋』の舵取りには、大きなやりがいと重さを感じていますね。もともと国民雑誌と呼ばれてきた雑誌なので、日本という国と正面から向き合う企画に取り組みたい。たとえば2022年は、部落解放同盟の前身である水平社や、日本共産党も創設100周年なんです。加えて100周年ということではありませんが、創価学会(1930年創設)。いずれも長い歴史を持つ組織が勤続疲労というか、いろいろと問題を抱えているので、そういうところに光を当てた特集も積極的にやっていきたいですね。
『文藝春秋』、100年の重みと
新しいチャレンンジ
──もし藤原さんに『文藝春秋』からプロデュースやコラボレーションのオファーがあったら、どうしますか?
藤原 若い層を取り込めるのだったら、面白そうですね。たとえば表紙を写真や現代アートにしたり、という手はあるかな。
──ロゴはどうですか?
藤原 ロゴはいじりませんね。
新谷 私にもロゴをいじる選択肢はありません(笑)。表紙は今年から日本画家の村上雄二さんにお願いしています。村上隆さんの弟さんで、凄まじい技術でウルトラマンや仮面ライダーを描いちゃうような方(笑)。
藤原 そうなんですね。でもあまり変わったようにも見えないけれど。
新谷 それはやっぱり、この看板のもつ重さと言うか、力かもしれませんね。100年の歴史を持つメディアなので、ガラッと変えることは難しいし、そこまで変える必要もないですし。
藤原 話は変わりますが新谷さん、昨年やっていた『日本沈没』ってドラマは観られましたか? あれを観て僕は、官僚って本当に大変な仕事だなあ、と思ったんです。自分だったら日本が沈むとか、絶対アナウンスできなくないですか? もし沈まなかったら、それこそ大変なことになるし。だからああいうことを決めたり実行に移さなくてはいけない官僚たちを、ちょっと尊敬しました(笑)。
新谷 観ました。官僚ってあれだけ大変な仕事をしているわりに、給料はめちゃくちゃ安いんですよ。政治家には徹夜で酷使されて、天下りしたら叩かれて。そんな現状ですから、もう優秀な人材が集まりにくくなっていて、このままでは当然国家としてのクオリティは下がっていきます。
藤原 そうでしょうね。官僚ヒーローみたいな人がいっぱい現れたらいいんですけど。
新谷 昨年の11月号で、財務省のトップである矢野康治事務次官が実名で論文を書いてくれたんです。「このままのバラマキを続けていると、この国の財政は破綻しますよ」というセンセーショナルな内容で、とても売れました。この〝矢野論文〟は、『日本沈没』の官僚たちがしたように、彼にとって非常にリスクのあることなんです。でも彼は国の金庫を預かっている者として、リスクを冒してでもこれはまずいんですよ、と言っているわけで、その意見は当然傾聴に値する。これによって高市早苗さんや安倍晋三さんあたりは怒りましたが、私は批判の声があがったことも含めて意味があったな、と思います。そういう賛否が巻き起こることによって、分裂した論壇が、ぶつかり合うきっかけになったわけですから。
──財政に注目を集めるきっかけになりましたよね。
新谷 だから最近、永田町界隈では『文藝春秋』の注目度がぐっと増していて、高市早苗さんの総裁選出馬宣言や、台湾の蔡英文総統インタビュー、豊田章男さんの単独インタビューなどのコンテンツを通して、〝とっておきの発信をする場所〟みたいなイメージが徐々に広まりつつある手応えはあります。
藤原 僕らならそれで興味を持って読もうと思いますが、その下の世代にはなかなか伝わらない。そこは問題ですよね。
新谷 そうですね。ですから私にとっては、今日みたいな取材を受けるのも、『文藝春秋』の面白さを伝えるための、地道な活動の一環なんですよね。
藤原 Ring of Colourの読者は絶対に読んでないでしょうからね。「古本かな?」って思うかもしれない(笑)。僕としては、わかっているようでわからないようなもの、たとえば〝暗号資産のその先〟みたいな記事は読んでみたいですね。