新谷学と藤原ヒロシは
仮想通貨をどう捉えるか?

新谷 それはテーマとしてありますよね。それこそ藤原さんも「FRGMTRZM NFT」として、NFTマーケットプレイスに参入されていますし。

藤原 僕が始めたときは、まだNFTという呼び方もなかった頃です。メディアアーティストの真鍋大度くんが、以前からブロックチェーンを使ったアート作品を売っていこうとしていて、そこに誘われる形で始めたので。だからみんなが言うNFTとは、ちょっと最初のアプローチがずれているかもしれませんが、探り探り進めて、ようやくできたのがこの前の作品です。でもまだ全然わからないですね。

新谷 やっている本人でも(笑)。最近は、中学生が描いた絵がすごい値段になったりしていますよね。

藤原 でも、最近わかったのが、ある意味適当なものがいいんだなって。結局コレクタブルなものだと、そこから先に流通していかないんです。自分で持っておきたいから。適当に買ったけど飽きたから売っちゃって、また次の買おう、というくらいのものじゃないと、流通しないんですよね。

新谷 私が『週刊文春』をやってるときに一番腹を立てていたのが、私たちが発信するスクープがどんどん拡散していったときに、タダでその情報を使ってビジネスする人が出てくることなんです。ブロックチェーンの仕組みを使って、その情報にタグ付けすることで、拡散するごとにお金が入ってくるような仕組みにできればいいのですが、まだだいぶ先の話でしょうね。

藤原 逆にその技術によって、スクープ情報の無料化がますます進んでしまう可能性もあるから、難しいですよね。

新谷 確かに。藤原さんがNFTに進出したのは、クリエイターとしての純粋な興味ですか?

藤原 そうですね。僕自身はまだウォレットも持っていないし、何も買ったことはないです。まわりのみんなはNFTの次はメタバースと言っていて、興味は持っているんですが、両者はわりと違うな、と。NFTは制作側にまわることも容易なんですが、メタバースはその土地を買うだけなので、制作側にはなかなかまわれない。誰が早く土地を買うか、ということなんですが、結構リスキーですよね。Facebookも今メタバースに投資していますが、倫理的に彼らが土地を売るとは考えられませんし。NFTの価値も、まだしっかり上がり切るかの確証はありません。

新谷 すごいなあ。私はどうしても触れるとか、殴れるとか(笑)、実体のあるものを信じる人間なので、全然ついていけない。

藤原 今のところは富裕層の遊びでしかありませんから。でも今や中学生でも、お年玉をウォレットに入れてみようとか、0.001ビットコイン買おう、みたいなことはあると思うんですよね。

新谷 そういう時代にはなっていますよね。

藤原 1990年代の若手起業家の時代って、お金そのものがブームでしたよね。今はまた時代が一周して、金融トレンドになっているんじゃないですか。洋服よりもビットコイン買おう、とか。

新谷 その反面、LPレコードがバカ売れしている世界観もあるわけで、こういう時代だからこそ、物体のもつ価値が再認識されている部分もあるんでしょうね。でも、私なんかは、便利さもスピードもこれくらいでもう十分だけれど、世の中はどんどん先へ行くんだろうな。

藤原 新谷さん、毎月amazonの領収書とか見ます?

新谷 いや、見ないかなあ。

藤原 そうですよね。〝amazonタダ派〟ですよね?

新谷 いや、タダじゃないけど、確かに考えずに買っている(笑)。

藤原 ちょっと富裕層的な言い方だけれど、amazonはタダくらいの感覚という。SuicaもUberも、みんなそういう感覚になってきちゃうんですよね。

新谷 私は富裕層じゃないけれど、必要経費なので(笑)。藤原さんは現金を使うことってあるんですか?

藤原 ほとんど使わないですね。

新谷 では書店は?

藤原 たまに行きますが、本当に時間つぶしとして。書籍もできる限りKindleで読みます。

新谷 私は人間の型が古いのかもしれませんが、本はやっぱりめくって読む派だなあ。だからこそ、『文藝春秋』というプロダクトが持つ価値を訴えたいな、と思いますし。分厚くて重たいけれど、持っているとなにか格好いい、気持ちがいい、みたいな。

藤原 今の僕がそう感じるかはわからないけれど、昔はニューヨークとかロンドンで朝カフェに行くと、みんな新聞を読んでいて、それがとてもお洒落に見えましたよね。向こうは新聞が分厚くてスタイルの提案なんかもあって、そこで洋服も見れてしまう。あれは憧れますよね。

新谷 情報にプラスαがあるから、プロダクトとして手に取る価値が生まれるんですよね。そういう意味でいうと、『ニューヨーカー』誌は意識するところです。紙とデジタルが、双方向でうまく機能しているという意味でも。

藤原 ここに出ているものを、僕たちが友達同士で話すネタにするような感じになるといいですよね。今映画でやっているGUCCIやLVMHグループみたいな、ファッションコングロマリットの世界も面白いと思いますよ。専門誌でやっても面白くないし、そういうのが『文藝春秋』で読めたら楽しいんじゃないかな。穴あきニットがロロ・ピアーナにあることの意味にも通じますが、そういう分野って、まだあるんじゃないですかね。

新谷 それは嬉しいな。情報をください。いや、むしろ書いてください(笑)。ノンフィクションがお好きでしょうから、書評ページでも。