※本コンテンツは、2021年5月27日に開催されたJBpress主催「第1回総務・法務イノベーション」のセッション1「総務出身の社長が考える~ES(従業員満足)を叶える『働く空間』の安心・快適~」の内容を採録したものです。

株式会社クボタ計装
代表取締役社長
吹原 智宏 氏

安心・快適な「働く空間」を戦略総務で実践

 受け身ではなく攻めの姿勢で活動していく「戦略総務」の実践の一つとして、より安心、より快適な「働く空間」への関心が高まっています。

 私は1990年に株式会社クボタに入社して人事総務を担当し、その後営業やマーケティングを経て株式会社クボタ計装の社長に就任しました。総務時代の仕事で誇れることは事業所の給食を一番おいしくしたこと、というのは半分冗談ですが、「どうしたら人が生き生きと働けるか」という思いを抱いて当時も奔走しました。社長になってからもメンタルヘルス・マネジメント資格やキャリアコンサルタント資格を取得していますが、それは人を大切にし、生かすことが企業の生命線だと考えているからです。総務部門の皆さんにはぜひ、戦略総務で「人が生き生きと働ける環境をつくることで、自分が企業価値を高めていくのだ」という気持ちを持っていただきたいと思います。

 クボタについても少しご紹介します。クボタは130年前にできた会社ですが、当時、日本では伝染病コレラの国難に面していました。その中で、国産の水道用鋳鉄管をはじめて製造した会社です。その背景には「水の安全供給によってコレラから人々を救いたい」という創業者の精神がありました。クボタは農業機械で良く知られている会社ですが、もう一つの柱が水です。水の技術で社会貢献したい、という企業理念があります。アフターコロナ時代の「働く空間」に深く関わる「水」というキーワードをぜひ心に留めておいてください。

 この後は、Well-Being(ウェルビーイング)という理念、その実現のためのファシリティー的アプローチ、三つの導入事例に見るESの実態、そして総務部としての腕の見せどころである稟議書の通し方についてお話しします。

アフターコロナのウェルビーイングをどう実現するか

 新型コロナウィルス感染症で社会は激変し、企業の在り方や働き方も変わりました。総務の皆さんには、今この時を従業員の潜在ニーズを知るチャンスと捉えて、ウイルス対策のみにとどまらず、幅広く施策を打っていただきたいと思います。投資コストがかかっても中期的に施策を打つのが戦略総務です。キーワードは「より安心、より快適」です。

 ウェルビーイングというと、多くの方がWELL認証を思い浮かべるかと思います。2014年にアメリカで発表された空間評価システムで、働く人の「健康」を評価軸に加えたものです。WELL認証はウェルビーイングに対応したオフィスであるという証明になりますが、認証を取るだけでは無意味であり、その概念を実現していかなければなりません。

 ウェルビーイングとは、簡単に言うと良好な状態であることを指す言葉ですが、三つの階層があります。上の図のピラミッドの一番下から医学的、快楽的、持続的とあります。これらを企業で実現することによって、生産性が30%アップし、創造性が3倍になるとも言われています。そのための施策をどう行うか。個に対してなのか、グループや集団なのか。場面に応じてコストと運用を考えていく必要があります。

 具体例を上げてご説明します。まず、医学的ウェルビーイングは心身における機能不全や病気の状態を防ぐものであり、粉じん、ウィルス感染、食中毒、過重労働など、当然対策しなければならないものです。

 次に、快楽的ウェルビーイングは気分が良い、快適といった主観的な質を上げるもので、価値感が多様化する中で難しくもありますが、これもまた大変重要なものです。従業員が生き生きと働くことができる環境を実現できれば、エンゲージメントを高め離職率を抑えることができます。生産性も向上させます。空間が適温である、乾燥していない、においがない、花粉症の方が快適に過ごせる、などの事柄が快楽的ウェルビーイングを左右します。

 最後は持続的ウェルビーイングで、人間が潜在能力を発揮し、存在意義を感じながら周囲の人々との関係の中で活動できる状態を指します。ハラスメントやコミュニケーション不足がないことはもちろんなのですが、個人が求めるキャリアデザインと企業が与える役割や権限をいかにマッチさせるかが重要です。