森本彪雅(ひょうが)(24)の場合:日本人としての生活の基本と考え方の軸を、娘に伝えられる父親でありたい

 次に話を伺ったのは、森本彪雅(ひょうが)さん(24)である。

24歳にして一児の父である森本さん。まだ若い彼にとって「アカミネロイヤルライン」のスーツは決して安いものではないが、昔ながらの製法でつくられたそれは、長年にわたって着ることができる。森本さんはスーツを通して、日本の社会のあり方に目を向けている

 仕事はITビジネス。赤峰さんが出演する動画を見たのが、スーツに対する興味が生まれたきっかけである。それまではただスーツは作業着だと思っていた。ところが、「めだか荘」を訪れて赤峰さんに出会い、オーダースーツを作ると、考えが変わった。スーツは奥深い文化をもつ、嗜好品に近い服だとわかった。同時に、赤峰さんの該博な知識や衣食住の「厚み」に感動し、服を作るという目的以外でも訪れるようになる。岡山ではトランクショーのお手伝いをしたこともある。

 森本さんが、赤峰さんのスタンスで惹かれるのは、衣食住があるなかの服という考え方である。そこを出発点として、日本人としてどのように生きていくのかを考えさせられている。「めだか荘」を訪れても、服の話はあまりしない。暮らしの中の基礎を学びに来ている。あいさつからテーブルマナーまで。表面的な振る舞い方ではなく、その奥にある意味を赤峰さんは教えてくれる。一緒に食べることを通して、日本人として知っておかねばならない風習までも学べる。

田園の風景、可愛らしいめだか、季節の果実をついばみに集まるシジュウカラやスズメ……。「めだか荘」で過ごす時間は、日本の四季と、その中で営む昔ながらの暮らしを再認識させてくれる。森本さんのような都会暮らしの若者にとっては、懐かしくも新鮮な体験だろう

 森本さんは一歳の娘をもつ父親でもある。日本人としてどのように生きていくかという課題は、一歳の娘に何を教えられるかということとつながっている。当たり前のことをしっかり教えられる親になりたい。娘にはプライドをもつ生き方をしてほしい。娘が二十歳になったときに、自分の軸でモノを選べるようになっていてほしい。赤峰さんとの会話は、娘の将来を見据える父親としての自分の軸を作る機会にもなっている。

 ITビジネスという時代の最前線で仕事をする森本さんが、今、切実に大切だと思っていることは、マネージメントだとか英語だとかいう「ビジネススキル」ではない。むしろ、社会の持続的な幸せのために、ひとりひとりが内側に目を向けることが大切だと信じるようになった。赤峰さんは、内側に目を向けることを促してくれた。

 

高橋義明(39)の場合: 服ではなく、生き方の勉強をしている

 最後にお話を伺ったのは、高橋義明さん(39)である。

紳士服に関して、豊富な経験と知識をもちながらも、本当に手本にするべき存在が今まで見つからなかったという高橋さん。彼が求めていた装いとは、うわべだけのラグジュアリーではなく、生活に根ざした根源的なものだった

 彼は6年前、あるポロシャツを探していた。どこを探しても見つからなかったのだが、ついにたどり着いたのが、赤峰さんだった。初めて「めだか荘」を訪れ、赤峰さんにお会いして、かっこいい大人だなあと衝撃を受けた。

 「めだか荘」ではスーツも作るようになったが、赤峰さんと同じ生地、同じ型で作っても、同じようにかっこよくなるわけではない。内面、暮らし方、食べるもの、といった日々の生活がかっこよさの基盤であることを高橋さんは学んだ。そんな「内側」からにじみ出るかっこよさは、年を取るほどはっきりと差が出てくる。生活トータルで底上げしないと、見え透いてくることを知った。ファッション誌の情報を表層だけまねても空回りすることがあるのは、そのあたりを欠いているためだ。

赤峰さんが教える装いとは「これとこれを組み合わせればお洒落!」とかいうマニュアル的・即物的なものではなく、日本の四季や風土に合わせた、根源的な文化。当然それは食・住の文化とも切り離せない。お弟子さんたちはファッションではなく、生きるうえでの選び方、考え方を学んでいるのだ