藤原 今のHIP HOP界にはそういう子たちが多そうだし、面白いし、『文春』でルポを連載したらいいんじゃないですか? 今は不良=暴走族やヤクザではなく、不良=ラッパーみたいな図式もあると思うので。彼らは、言葉もしっかりしているし、面白いんじゃないですか?

新谷 それは興味深いですね。事件って表と裏の狭間で起きることが多いから、本当は両方知ってた方がいいんですよ。私たちの仕事って、いろんなところに出かけて人に会って、この人からこんな話聞いて、あの人からあんな話聞いて、それらをガチャンと合わせると、思わぬ化学反応が生まれたりする。だから面白い人とは偏りなくどんどん会って、ジャンルを超えて世界を広げていく。それを30年以上続けてきたことが、私の編集者としての一番の財産なんですよね。

藤原 そういう意味では、僕も似ているところがあるかもしれません。

新谷 人とのお付き合いの仕方が、フラットですよね。

藤原 それもそうですけど、好きなことは右でも左でも関係ないというか。ファッションでも、アンダーグラウンドから大メジャーまで面白いと思うし。新谷さんこそ、会社の中で慕っている人がいっぱいいそうなイメージですが。

新谷 いつも向かうところ敵だらけって言ってますけどね(笑)。こういう形で言いたい放題、やりたい放題で、誰にも頭を下げませんから。ただ、自分より若い連中のことは可愛いですね。

藤原 新谷派閥とかあるんですか?

新谷 体育会のノリで男で集まるのが好きなので(笑)、男ばかりです。擬似任侠集団みたいなところがあって、さっきの元少年Aの直撃取材でもそうですが、「骨は拾ってやるから行ってこい」と。

 でもそうするためには、日頃から「あの人のためなら」と思ってもらえるように生きることがすごく大事なんです。藤原さんにだって、案件ごとにそういう人はいますよね?

藤原 変な話、僕に頼まれたらやるしかないな、と思ってくれる人はいっぱいいるかなとは思っています。あんまり頼むことはありませんが。

新谷 頼まれた人、大喜びでしょう。藤原ヒロシに何かを頼まれること自体、ものすごい価値じゃないですか。

藤原 じゃあ酒鬼薔薇取材、行かせますか(一同笑)。

 

(※4)「ベイシティローラーズ」──​1970年代に活躍したスコットランドのアイドルロックバンド。タータンチェックをあしらった衣装で知られ、若い女性たちから人気を集めた

(※5)ジョニー・ロットン──​パンクバンド「セックス・ピストルズ」のリードボーカル、ジョン・ライドンの愛称。「ロットン(rotten)=腐っている」とは、メンバーから汚い歯を指摘されたことに由来する

 

合言葉は〝NO FUTURE〟!

新谷 それでも苦手というか、合わない人っているんですか?

藤原 会ってもつまらない人はいますよ。自分のことしか話さない人とか。僕は自分が何をしてきた、とか話すよりも、世の中でおきた事件やトピックについて語るのが好きなんです。

新谷 藤原さんは評伝(『丘の上のパンクー時代をエディットする男・藤原ヒロシ半世紀』)(※6)こそありますが、いわゆる自伝もないし、自分の言葉はほとんど残されていないですよね。

藤原 そうですね。それはみんなに語ってもらえばいいかなって。『丘の上のパンク』も、ゲラチェックはしましたけれど、本になってからは一度も読んだことがないんです。

 

──​この本に出てくる周囲の人々の証言に関しては、藤原さんがまったく修正を入れなかったという話を聞きましたが。

藤原 「これは違うよ」って怒っている人もいましたけれど。僕はたとえ記憶違いだったとしても、その人がそう思ったのであれば、それがその人にとっての真実だから、そのまま使った方がいいよって。

新谷 やっぱり、一本筋が通っているんですね。パンクのルーツを感じさせるというか。

藤原 いや、全くなんですけど、パンクには〝NO FUTURE〟という免罪符がありますから(笑)。これは結構強いですよ。明日はないんで。

新谷 この言葉があれば、何を言われても気になりませんね。

藤原 僕は人の意見は受け止めますが、悪く言われることはあまり耳に入ってこないんです。僕はネットで自分のことを絶対検索しないし、見ないから。

新谷 エゴサは私もしませんね。しかし「ネットにまた〝死ね〟って書かれてましたよ」なんて現場の連中に言われたりしても、「大丈夫、俺〝NO FUTURE〟だから」って(笑)。すべてを無力化してくれる言葉ですね。

 

(※6)評伝(『丘の上のパンクー時代をエディットする男・藤原ヒロシ半世紀』──​今はなき天才エディター川勝正幸氏が編集し、2009年に小学館から出版。本人のインタビューに加え、約70人の証言や膨大な資料からの引用を通して、藤原ヒロシ氏の半生を焙り出した力作

                         

対談を終えて

新谷 学

 力の抜け方が普通じゃないですよね。だから目が澄んでいて、時代の空気を肌で感じることができる。自分のスタイルを崩すことなく、絶好球だけをジャストミートしている印象です。私は間逆で、力任せにビーンボールにも手を出して、ホームランも打つけど三振して尻餅をつくこともある。ただ偉そうな人間に頭を押さえつけられると、徹底的に反抗するのは共通点だと思いました。面白いコラボの要諦は、対極にあるようでいて、同じ価値観、熱量の相手と組むことだと思います。その時はじめて、見たことのないような素敵な化学反応が生まれる。ヒロシさんとコラボできたら嬉しいですね。

 

藤原ヒロシ

 違う世界で違う時間を生きてきたと思うんですが、どこか共鳴するところがあるんですかね? 
 何気ない会話を、ふたりして上手に対話に変えていくというか、探りながらのそのプロセスが楽しかったです。
 次に会う時は、きっともっと深くお話ができると思うので、楽しみです。新谷さんの道徳観の境界線を探りたいです(笑)。「新谷の彼岸」をテーマに。

 

 

PROFILE

しんたに・まなぶ(編集者)

1964年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科を経て、1989年に株式会社文藝春秋に入社。『スポーツ・グラフィック・ナンバー』『マルコ・ポーロ』編集部、『週刊文春』記者・デスク、『文藝春秋』編集部などを経て、2012年に『週刊文春』の編集長に就任。圧倒的なスクープ力で、同誌を日本を動かすメディアへと成長させた。2020年より週刊文春編集局、ナンバー編集局担当の執行役員に就任。その劇的な半生は柳澤健氏によるノンフィクション『2016年の週刊文春』(光文社)に詳しい

 

ふじわら・ひろし(Fragment Design)

1964年三重県生まれ。1982年頃からロンドンやN.Y.に渡航し、パンクやヒップホップといった最先端カルチャーの中心人物と交流を深める。1980年代前半からは東京のクラブシーンに新風を吹き込むミュージシャンとして、1980年代後半〜90年代前半からはストリートやアートに根づいたファッションを生み出すプロデューサーとして、東京のみならず世界のカルチャーシーンに絶大な影響を及ぼす。近年ではデザインスタジオ「Fragment Design」名義で、世界的なメゾンブランドやナショナルブランドとのコラボレートを数多手がけている。