令和の接客を実行するパルコと
市民起点でITを提供する浜松市



 続いて、林氏と瀧本氏によるプレゼンテーションが行われた。パルコのオムニチャネル戦略をリードしてきた林氏は、郊外店舗やネット販売が好調なのに対して、都心部では苦戦が続いているという現況を伝え、お手元商圏や足下商圏の強さを指摘した。コロナによりインバウンド旅行者が減少したが「渋谷パルコ」のブランド力が世界各国のお手元商圏を巻き込みコロナ以降30数カ国からオンラインで注文が入るという。

 特にこれまでと大きな違いがあったのは、新店舗のオープニングでの対応だ。同社は自粛ムードの広がっている2020年11月20日に心斎橋パルコを新規開店した。三密を避けるために行列ができた前年同時期の渋谷店のオープンとは違って、オープンから4日間は事前予約制をとって入館者数を制限した。当然、トータルでの来客者数は減ることになる。

 「ところが滞留時間は長くなりました。密ではないので安心して買い物ができたのです。ショップ側としてもしっかり接客ができました。その結果、お買い上げ率は80%を超えました。全国の店舗の平均が50%くらいですから1.5倍強になった計算です」と林氏は語る。

 リアルな店舗でゆっくり接客することで楽しい顧客体験が提供できたことが、コンバージョン率のアップに繋がった好例だろう。髙荷氏は「大量の人の移動に依存してきた、これまでのビジネスとは異なる、まさに“令和のスタイル”だと言えるでしょう」とその現象を評価する。

 人口減少に加えて、コロナ禍で地域経済が困難に直面している中、2019年10月にいち早く「デジタルファースト宣言」を行い、デジタルの力を活かした都市づくりに取り組んでいるのが、浜松市だ。そのエンジン役となっているのが、2020年4月に新設されたデジタル・スマートシティ推進事業本部であり、瀧本氏はその専門監として腕を奮っている。

 そのアプローチの特徴は「やらまいか型まちづくり」というスローガンに象徴されるアジャイル型のまちづくりと、市民起点のサービスにある。「地域医療を維持するために中山間地域においてオンライン診療の活用を検討するにあたり、市民起点からスマホで対応できない人に人が寄り添うサービスにしました」と瀧本氏は話す。

 浜松市では市長自ら「LGX(Local Goverment Transformation)」を掲げ、自治体自らDXに取り組むとともに、コワーキングスペースを整備しベンチャー誘致にも注力する。注目されたのが公園などに電源やWi-Fiを整備し車をオフィスにして働く環境を提供する「テレワークパーク」構想だ。本イベントの参加者からも多く「(このテレワークパーク構想に)応募したい」とのコメントが寄せられていた。

 デジタル領域だけではなく、リアルな企画にも積極的に取り組む。特産物のみかんを活用した「ミカンの木」のオーナー制度は幅広い人たちから注目を集めている。こうした官民一体の取り組みからエンゲージメントへとつなげていきたい考えだ。

データから顧客の関心事を把握し
本質的なニーズに応えるIT活用を

 最後にイベント全体を振り返りながら、ディスカッションが行われた。髙荷氏は「エンゲージメント商圏を構築するために重要なのは、自己紹介力と顧客理解力です。データを活用することで顧客理解の解像度を上げることができます」と語る。顧客を中心に据えることでDXの筋道が見えてくることは多い。

 林氏は「エンゲージメント商圏はコミュニティと捉えることができます。お手元商圏も足下商圏も関心事を軸にしたコミュニティ的な発想で取り組むのが、令和らしい取り組みではないでしょうか」と指摘する。マス的なアプローチで、打率よりも打数を重んじた昭和との違いを明確にしておくことが必要だろう。

 それを受けて髙荷氏がキーワードとしてあげたのが「関心視野」だ。関心がないと視野に入ってこない。当然、覚えてはもらえない。「そこに人の曖昧さがあります。だからこそスピーディにトライ&エラーを繰り返し、関心を持ってもらえるようにすることが、エンゲージメント商圏では大事になります」(髙荷氏)。

 「デジタルを受け入れるツボはどこにあるのでしょうか」という藤森氏の問いかけに、林氏は「顧客が望んでいるのはデジタル体験ではありません。リアルなコンテンツこそがツボだといえるでしょう。接客やミカンの木といった人間の本質に響くリアルがあって、その効果を高めるのがデジタルの役割だと思います」と話す。

 瀧本氏は「スマートシティやデジタル活用というと便利さばかりが強調されますが、今はQOLや安心、安全といったリアルな領域へつながることの価値が高まっています。デジタルの先に何を求めるのかを日々考えながら施策に取り組んでいます」と語った。

 藤森氏は「デジタル変革は画一的なものではないことがよくわかりました。やってみなければわからない部分が多い。人が活躍できるためのITを作ってく必要があると感じました」と締めくくった。社会とITの接点はますます広がっている。どんなスタンスから考えるかで結果は大きく変わってくることになるだろう。

本イベントは以下の動画にてご覧いただけます>>

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