ダッシュボードの中央には古式ゆかしい速度計と回転計が並んでいるけれど、ドライバーの正面には小さな液晶パネルが加えられている。「未来世紀ブラジル」的未来がここにある。直立したフロント・スクリーンの先には、長いボンネットと、フェンダーが見える。ボンネットにはエンジンの冷却用のスリットが入っている。これがいいんだなぁ。

モダンになった計器類とステアリングホイール。BMWと同じATのシフトレバー

 プラス6を借り出したモーガンの正規輸入総代理店のエスシーアイは、小津安二郎の遺作「秋刀魚の味」に出てくる東急池上線の石川台が最寄り駅である。この町に佐田啓二と岡田茉莉子演じる、主人公の長男夫婦が住む団地がある。映画が製作・公開されたのが1962年。それから60年近くが経っているわけだけれど、モーガンの運転席から見える長いボンネットのその先の路地の風景を、もしかして小津監督も眺めたかもしれない。
「今度出たモーガン・プラス6だけどね、ここだけの話、これがいいんだ」
「いいかい?」
「ああ、とってもいい」
「そんなにいいのか?」
「いい。いいんだよ」 
と小津映画の登場人物たちなら、語るにちがいない。

 

乗り心地の快適さに驚く

 プラス6で走り始めた当初は、その乗り心地の快適さに驚いた。しばらく路地をウロウロ走っていると、意外と硬いことに気づく。標準は18インチ・ホイールのところを、試乗車はオプションの19インチを履いているので、それもあるだろう。タイヤは前225/35、後245/35という現代のスポーツカーのように前後で異なる扁平なサイズになっている。ただ、現代のスポーツカーより、ちょっと細い。タイヤがデカすぎない。日常の速度域で快適だと感じる、適度な硬さを持っている。

 あいにく、この日、事故だか工事だかで東名高速が渋滞していて、そのあおりで環八まで混んでいた。そこで、河口湖方面に行くべく、多摩川沿いに一般道を40kmほど走って、稲城ICから中央道に入った。

 これまでのモーガン4/4もクラシックな見た目とは異なり、マニュアル操作さえできれば、運転はさほどむずかしくなかった。プラス6はそれに輪をかけてイージーだった。なんせATということもある。ボディが大きくなったといっても、絶対的には依然コンパクトだし、フェンダーが運転席から見えて、四隅がつかみやすい。

 幸いにして多摩川沿いの一般道はまぁまぁ流れており、BMWのシルキー・スムーズな6気筒エンジンの発する低音、バスの音色を楽しみながら、これでハードトップを取り外していたら、もっと気持ちがよかったかも……と思った。

ライトウェイト・スポーツカーの身のこなしで、軽快に走る・曲がる・止まる

 稲城ICから中央自動車道に上がる入路でアクセルを深々と踏み込むと、単に乗りやすいクルマではなくて、とんでもないモンスターでもあることがようやくわかった。

 BMWの3リッター直6ターボは最高出力340ps、最大トルク500Nmを発揮する。車重は1140kgとめちゃんこ軽い。だから、一般道でも動きが軽やかで、運転しやすいのだ。

 その一方、最高速度は、こんなに空気抵抗が悪そうなのに267km/h、0-100km/h加速は4.2秒を誇る。0-100km/hは、ポルシェ911カレラ・カブリオレと同等の速さだということだ。つまり、そうとう速い。フル加速時、乗員はシートに押しつけられる。クラクラする速さである。

 

スリル満点の加速が楽しめる

シンプルな機能美を見せるリア。2本出しのマフラーが精悍だ

 クルマそれ自体は新しいプラットフォームのおかげもあって、安定している。リアがリジッドの頃とは異なり、もはや日本特有の高速道路の目地段差でも、ぜんぜん跳ねたりしない。

 驚くのは、びゅーびゅーと暴風が吹き荒れるがごとくの風切り音である。むかしのたばこ屋のスライド式みたいなサイドのプラスティック製のウィンドウを見てください。このサイドのウィンドウはネジで取り外しできるようになっているわけだけれど、このあたりから暴風音は発せられているわけである。

 もし、このサイドのウィンドウを外してしまえば、暴風音は消えるやもしれない。でも、それは冬のことゆえ、微塵も考えなかった。それより、ゆっくり走ることを考えた。暴風音に逆らって加速を続けていたら、もしかして風圧でハードトップをふき飛ばしちゃったりもするかもしれない……と思った。このクラシックなスタイルゆえに遵法精神にのっとりながら、スリル満点の加速が楽しめるのだ。

クラシックなミラーと、ネジで脱着可能なサイド・スクリーン