文=今尾直樹 写真=山下亮一

「CX-ジェネレーション」という新プラットフォームとBMWの直6のパワートレインでウルトラ進化した!

外見はクラシック、中身だけ最新テクノロジー

 キイをひねってからダッシュボードの丸いスタート・ボタンを押す。その際、同時にブレーキをしっかり踏んでいることを忘れてはならない。すると、ばひゅばひゅばひゅ、という盛大な音を発して、フロントの3リッター直列6気筒ターボ・エンジンが目覚める。

 外見はクラシックなまま、中身だけ最新テクノロジーでリノベする。建築物なら、現代では不可能と思われる素材と職人仕事でできた空間と、便利で快適な現代のライフスタイルの両立ができる。それの、いわば自動車版がモーガン・プラス6(シックス)だ。「生きる化石」ともいわれてきたイギリスの小さな自動車メーカーが、2019年3月のジュネーブ・モーター・ショーで発表し、本年6月にこの国でも発売となった最新モデルである。

 外見はご覧のように1936年発表のモーガン4/4と基本的に同じように見える。ところが、中身はまるで違う。4/4は戦前のつくり方そのままで、シャシーはスティールのパイプをはしご状に組んでいた。サスペンションは基本的にデビュー当時と同じ、フロントがスライディング・ピラー式、リアはリーフ・リジッドというオールド・スタイルで、ハンドリングはいいけれど、イギリス人の好きなヤセ我慢をしいる乗り心地がついてきた。

 その上に載せるボディは、木材でフレームを組み、そこにスティール、もしくはアルミニウム製のパネルを貼るという職人仕事のたまものだった。手づくりだから1台1台に個性があって、大量生産品とは異なる温かみがあった。

ボディのフレームの一部に、いまも合板が使われている

 1990年代の終わり頃、筆者もモーガンの本社を訪ねたことがある。ロンドンから北西にクルマでおよそ200km、マルヴァーンという町のはずれにレンガでつくられた工場棟が並んでいて、その風景のなか、4/4が押されていたり、並んでいたりするのを見ると、1930年代にタイムマシンでやってきたみたいな心持ちがした。

 ボディの製作工程では、職人さんたちがアッシュ、野球のバットにも使われている、軽くて丈夫なタモの木を炎の熱で曲げ、カンナで削り、木づちで金属のパネルをトンテンカン叩いていて、木工所のようだった。

 エンジンこそ、同時代の最新ユニットを積んでいたものの、ひとつのモデルをえんえんつくり続けるという姿勢は、「計画的陳腐化」の正反対。それは2代め社長のピーター・モーガンの方針だった。エンジニアでもあった彼は、「モダン化しなければ」という強迫観念にかられ、1963年に流線型のクーペ・モデルをつくった。けれど、それはまったく売れなかった。3年後、古いかたちのまま、V8エンジンを搭載した高性能モデル、プラス8を発表したら、ミック・ジャガーも買うほどの人気モデルになった。

 

ごく少数の世界中のマニアに贈る

 以来、ピーター・モーガンは、戦前の設計のスポーツカーをごく少数の世界中のマニアに贈り続けるという方針を貫いた。規模と利益の増大には淡白で、1970年代にイギリスで吹き荒れた労働争議の時代は、従業員たちをファミリーとして扱い、1999年に経営を息子のチャールズに譲るまで家業を守った。

モーガンは創業1909年の英国の手づくりスポーツカー・メーカー

 といって、モーガン4/4がホンモノの化石のごとく、だったわけではない。モータースポーツには積極的に参加し、1962年にはル・マン24時間耐久レースで2リッター・クラスの優勝を飾っている。1990年には前述したプラス8のレース・カー用にアルミニウム・シャシーを開発、さらに2000年にはアルミニウム製のシャシーをもつエアロ8という、ちょっとレトロモダンなスタイルの新しいシリーズをつくっている。

 エアロ8は家督を継いだチャールズ時代の産物で、チャールズは若い頃、モーガンのワンメイク・レースに参戦するアマチュア・ドライバーだった。モータースポーツは技術を磨く場で、磨いた技術は量産車にも使いたくなる。自動車、とりわけスポーツカーの歴史はモータースポーツへの挑戦でつづられている。モーガンも例外ではない。

 1962年にル・マンでクラス優勝をした、と前述した。そのときのドライバーのひとりであるクリス・ローレンスはその後、経験豊富な開発エンジニアとなり、その彼が中心となってエアロ8が生まれたのだ。

 エアロ8は1.2トン弱の軽量ボディに、BMWの4.4リッターV8を搭載する高性能モデルで、およそ20年後、このエアロ8のアルミニウム・シャシーが、プラス6のベースになった。

 ここで申し上げたかったのは、プラス6用の新しいアルミニウム・シャシーが突如出てきたものではなくて、なが~い歴史があるということだ。自動車はいま、100年に一度の大変革期にある。といわれるなか、かのモーガンもついに開発のテンポを速めた。と見ることもできるけれど、さすがモーガン、じっくりとコトを進めている。と解釈することもできる。

 

新しいアルミニウム・プラットフォーム

 古いホテルなのに蛇口をひねれば、熱々のお湯が豊富に出るごとく、モーガン・プラス6は新しいアルミニウム・プラットフォームの強固な剛性と前後独立のダブル・ウィッシュボーン・サスペンションのおかげで、現代の自動車同様に走らせることができる。試乗車のギアボックスがBMWと同じ8速オートマティック・トランスミッションであることも幸いしている。クラッチ操作がないだけでも、メチャクチャ楽ちんなのだ。

 ボディは若干、これまでのスティール・シャシーのどのモーガンよりも、ちょっぴり大きくなっている。2520mmのホイールベースはエアロ8の2530mmに近いことからも、新しいプラットフォームとエアロ8のそれとの近似性が想像できる。

1936(昭和11)年発表のモーガン4/4と基本的に変わらぬシルエット

 ドライビング・ポジションはとても低い。たぶん、これまでのラダー・フレームのモーガンより低い。流麗なフェンダーがあるため、全幅はずいぶん広いように感じるけれど、実際は1745mmしかない。同型のエンジンを搭載するBMWの2座ロードスター、Z4の1865mmと較べると、ずいぶんスレンダーだ。