ウィリス・ジープがお手本
そもそもディフェンダーは、第2次世界大戦後にイギリスの高級車メーカーのローバーがウィリス・ジープをお手本に、農業作業用の需要を見込んで独自開発した、イギリス版ジープである。開発を主導したモーリス・ウィルクスは、自分の農地でジープを使っていて、その彼のところを兄のスペンサーが訪問、ウチでつくろう、というような経緯があった。兄スペンサーは当時のローバーのマネージング・ディレクターだった。
申し上げるまでもなく、ジープはアメリカ陸軍の要請によって誕生し、米軍および連合軍の軍馬となって、大活躍した。どこでも走れる能力は、戦後、世界各国で参考にされ、結果的にユーティリティ4×4というひとつのジャンルが生まれた。わがトヨタ・ランドクルーザーもそのうちの1台で、もともとはのちに自衛隊となる警察予備隊への入札のために開発された。
ジープ直系の子孫も健在で、それが日本でも人気のジープ・ラングラーである。元祖&本家のジープと、それをお手本にした英日の2モデル、これに少々お高いメルセデス・ベンツGクラスを加えると、米英日独ヘビーデューティ4WD四天王のそろい踏みとなる。
元祖にして本家のジープ・ラングラーは、4代目の現行型も、4WDであることはもちろん、ボディとは別体の頑丈なラダーフレームと、泥濘地だとか砂漠、岩場等で威力を発揮する前後リジッドのサスペンション、より低いギア比に切り替えられる副変速機、ディファレンシャルのロック機構を備えている。リジッドだと、リジッドなので乗り心地が悪い。でもジープ はオンロードでの快適性よりも、オフロードの踏破性能において世界最強であることを誇りとし、アイデンティティとしている。
ラダーフレームとリジッドからモノコック、エア・サスへ
一方のディフェンダーは、1948年の発売以来、何度か小変更を受けながらも、基本的にはラダーフレームとリジッド・サスペンションを守り続けた。ボディ・パネルがアルミ製だったのは、戦後、イギリス政府が鉄を配給制にしていたためで、軍需用のアルミはもはや無用の長物となり、余っていたからだ。
ローバーから誕生したユーティリティ4×4はランドローバーと名づけられ、ウィルクス兄弟の目論見通り、大ヒットとなる。大英帝国の元植民地などではサビて朽ちないボディが重宝され、2016年に一旦生産終了となるまで、累計200万台以上が生産された。
ランドローバーはイギリスのアイコンとなり、ブランド化する。正式にブランド名になったのは1990年のことで、ディスカバリーという、ちょっとソフト路線のファミリー用4WDをランドローバーの名前の下に発売することになったからだ。混乱を避けるため、それまでランドローバーと呼ばれていたクルマをディフェンダーと命名したのである。
70年ぶりの新型ディフェンダーはイッキにモダン化され、ラダーフレーム、リジッド・サスペンションを捨て、新開発のアルミニウム製モノコックに4輪独立、さらにコイル・バネに変わるエア・サスペンションを得ている(ただし、エア・サスの標準装備は110だけで、90はオプション)。
エア・サス付きは、最低地上高を標準状態から40mm低く、最大で145mm高くすることができる。やらないほうがいいと思いますけれど、最大水深900mmの渡河能力を誇ってもいる。
元来、90も110も、ホイールベースの長さをインチで表した数字を車名にしていたわけだけれど、新型は先代よりもかなり大きくなっており、90のホイールベースは2585mm、110のそれは3020mmもある。
1インチは2.54cmだから、90も110も30cm近く車名より実際は長い。買い物にたとえると、「奥さん、これ、110インチです」といわれて買ってきたサンマが、じつは120インチあった、ということだからたいへんお得だ。
2リッター直列4気筒ガソリンのみ
日本仕様のエンジンはいまのところ、2リッター直列4気筒ガソリンのみ。これに副変速機付きの8速オートマチックが組み合わされる。駆動方式はもちろんフルタイム4WD。4×4専業ブランドのランドローバーがオフロード世界最強を自負する1台であることに変わりはない。泥地とか砂地、岩場、雪など、路面状況に応じて、スイッチひとつで最適なエンジン、トランスミッション、トラクションなどを自動的に制御する7種類のモードを備えてもいる。