サービス業へと変貌することが印刷会社の未来へつながる

JBpress/2020.5.20

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新たな領域への挑戦が始まっている

ーマーケティング領域に踏み出した印刷会社には大きな可能性があるということでしょうか。

郡司氏 印刷だけというところは行き詰まってきていますが、マーケティング活動と絡んでビジネスを展開しているところは上手くいっています。

 例えば札幌のフュージョンは印刷会社から独立してできたダイレクトマーケティング専門の会社ですが、印刷会社ならではの発想でマーケティングの支援を行っています。マーケティングのプロジェクトに必ず最初から参画しているのがポイントですね。

 印刷会社でありながらも、デジタル化を進めてマーケティング領域にまで踏み込んでいる会社もいくつも出てきています。JAGATの印刷物をお願いしているウイル・コーポーレーション、SFAを活用している大洞印刷、長野で独自のビジネスを展開する小松総合印刷などでしょうか。

 また、印刷物を使う側と作る側をとりもつコンサルティング会社も出てきました。goofでは、デジタル思考で紙メディアを見直すことを得意としていて、どう展開して良いのかわからない印刷会社をコンサルティングするようなことにも取り組んでいるようです。

ー印刷会社という枠組みを超えた取り組みが増えているようですね。

郡司氏 デジタル技術を駆使して小ロットで出版社をサポートするケースも増えています。印刷会社や印刷機器メーカーなどが協業して中小出版社向けの小ロットの出版サービスを提供しているデジタル・オンデマンド出版センターがあり、講談社やKADOKAWAといった出版社系で小ロット出版に取り組むグループも出てきました。

 また、コミックマーケットから出発し同人誌印刷を得意とし、同人活動を総合的にサポートするねこのしっぽ、化粧箱から段ボールケースまで一貫して自社でカバーし、「ハコプレ」という箱のパッケージの印刷通販に取り組む共進ペイパー&パッケージ、オンデマンド印刷で広告を集めたフリーマガジンを発行しているユニバーサルポストといった異色の企業がどんどん出てきています。

これからも活躍できるポテンシャルは十分

ーそれだけ業態が変わってくると求める人材も変わってきそうですね。これからの印刷業界にはどんな人材が必要になるのでしょうか。

郡司氏 大きく捉えれば製造業からサービス業に変わってきつつあるわけですから、今までとは全然違う人材が求められます。まず大事なのが会話ができることです。相手の話していることが理解できるだけでなく、自分の考えをわかりやすく伝えられなければ仕事になりません。会話からビジネスが始めるわけですから当然です。

 今クライアントから求められているのは、一緒に考えることです。自分の考えを押し付けることではありません。主張するばかりではなく、相手のことを理解し、その上で印刷会社ならではの、素晴らしいデザインを提示して欲しいですね。

ー人材教育についてはどんな対応をとっているのでしょうか。

郡司氏 やる気になっている会社は躍起になって資格取得を奨励しています。JAGATのクロスメディアエキスパートをはじめ、ネット関連やマーケティング関連の資格取得を強化しています。人材が育てられなければ企業買収という手段をとることもあります。

ー印刷業界にはどんなことを期待していますか。

郡司氏 印刷業界ならではの強みを活かせばチャンスは沢山あります。それだけにこれまでのような待ちの姿勢では勿体無いです。

 強みは大きく2つ。一つは色々な業界と接点を持っていることです。学会誌を印刷しているなら学会の運営を手掛けるとか、申込書を印刷しているなら受付サービスを請け負うとかビジネスを広げていけるはずです。

 もう一つの強みは、実はデジタルに強いことです。フォントや文字コード、色に関する専門知識、4Kについても知っているはずです。HP Print OSが広がればネットワークを通した協業もできるようになります。

 印刷会社はこれからも活躍できる素地を持っています。JAGATとしてもバックアップして行くので、視野を広く持って事業を広げていただきたいですね。