KDDI自身が、改革への取り組みを進める

 そこで、私たちKDDIがどのように変化してきたのかをご紹介しましょう。
 
 例えば、スマートフォンで動くアプリケーションを作るとします。KDDIのかつてのやり方では、まず企画部門が市場分析をし、各部の調整をしてサービス仕様を作り、企画会議にかけます。社内の承認が取れたら、開発部も外部に要件定義を書いて発注します。半年ぐらいたってようやく出来上がって、運用を開始し、プロモーションをするという流れです。
 
 しかし、この方法ではさまざまな問題が起きていました。例えばオーバープランニングです。ベンダーに発注した後に必要な機能が出てくると追加で稟議を取らなければなりません。そうなると面倒なので、必要そうな機能を想定して最初に全部入れてしまうのですが、これでは使われない無駄な機能も作ってしまうことになります。

 また、開発を行うベンダー側では、いかに仕様書に沿って納期通りに作るかがミッションになりますので、作ること自体が目的化してしまいます。企画後は、ユーザー不在の状態で開発が進んでしまうのです。さらに販促時、サービスができあがってきたときには、すでに市場が変わってしまっていて売れないということが起こっていました。

 この状況を変えるために私たちは2013年からサービス開発のプロセスを変えていきました。それは一口で言えば「アジリティ(Agility:敏しょう性)の高いサービス開発」です。従来のサービス開発では、商用リリースに向けてリスクが高まり、コストも積み上がります。リリース後にリスクが解消されコストが回収できればいいのですが、万一仮説と市場のギャップが大きいと積みあがったコストがサンクコスト化して致命傷になります。

アジリティの高い開発体制に転換

 一方でアジリティの高い開発とは、小さく何度もリリースをし、そこで賢く失敗することで、学びを得て改良を繰り返すというスタイルです。極論すれば、途中でこのサービスが世の中に求められていないと分かれば、早期に撤退して別の新しいサービスに貴重な経営資源を振り分けることもできるのです。不確定要素を多く含む新規事業開発にはこういったアジリティの高い開発が適しています。

「アジリティの高いサービス開発」を行うには組織改革も必要です。というのも、現場が決裁権を持っていなければ、発注などの際に毎回上長に承認を取る必要があり、なかなか進まないからです。さらに、ヒエラルキーのある階層組織で管理型の開発を行うと、縦割りの組織の中で、企画、開発、運用など、それぞれの部門の利害が一致しないため、うまくいきません。

 私たちはそこでまず、各部門から人材を集めた小さなチームを作りました。そして、既存事業から分離するとともに、権限も委譲しました。つまり、このチームの中で話し合って自分たちの判断で新しい機能を実装していいし、自分たちの判断でリリースをしていいとしたのです。スモールチームで自律的な企画開発を行うわけです。

 具体的には、プロダクトオーナーが「こんなサービスを作りたい」と言うと、さまざまなバックグラウンドを持ったエンジニアが、「この技術を使ってこんなやり方が考えられる」とか、「こんなデザインがいいのではないか」と案を出し合いながら実装していきます。

 1~2週間くらいの単位でサービスをリリースし、ユーザーからフィードバックを得て、また次の1~2週間で改善を繰り返していくというスタイルで、全てがチーム内で完結する状態に変えてきました。

 このやり方は非常にうまくいきました。意思決定が早くなったことで開発スピードが上がり、また、本当に必要な機能だけを実装するため、コストも大幅に削減できました。さらに、アジャイル型企画開発を始めた2013年当時は、5人のチームが1つしかなかったのですが、今では「アジャイル開発センター」という専任の組織ができ、20チーム(200名)という陣容に拡大しています。

 また、自律的な開発と言いましたが、内製で開発するだけでなく、それぞれの分野の優れたプロフェッショナル企業との連携も進めています。例えば、「IoTの通信を使ってセンサー情報をクラウドに上げてデータベースに蓄積してグラフで見える化する」といったことをやろうと思ったときに、ゼロから作ると場合によっては何週間もかかりますが、既存のIoT基盤を活用することにより、数時間でできます。

 ただし、アプリケーションのユーザーインターフェースなど、ユーザーにタッチするポイントは非常に重要なので、外注せずに中に持つようにしています。コア(内製)とノンコア(外部利用)の見極めが大事です。

 さらに、デジタルは何のために存在するのかと言えば、やはり人のためです。人が幸せになったり人が困っていることを解消したりすることが最大の目的です。何を作るか、どんな技術を使うかではなく、誰のどんな課題を解決するかに常にフォーカスすることがとても重要です。