本コンテンツは、2020年3月4日に開催されたJBpress主催「Digital Innovation Forum 2020 <春>〜デジタル変革によるイノベーションの実現〜」での講演内容を採録したものです。

KDDI株式会社
経営戦略本部 KDDI DIGITAL GATE センター長
山根 隆行 氏

日本ではデジタル技術者がビジネスに溶け込んでいない

 昔は既存のビジネスやプロセスにITを使って効率化、改善をするというのがITの主な役割でした。一方で、現在は新しく何かビジネスを始める際に最初から当たり前のものとしてITがある状態です。デジタルトランスフォーメーションを実現するにあたり、ITやデジタルは専門家による特別な領域として扱うのではなく、ビジネスと溶け合っている状態になければなりません。
 
 民泊サービスのAirbnb、動画配信のNetflix、配車サービスのUberといった企業は、もともとリアルのビジネスがあったわけではなく、デジタルを前提に、実在する世界を変革してきました。では、こういった企業に私たちがなれるのでしょうか。

 課題はいくつかあります。まず、ITエンジニアが所属する組織です。IPA(情報処理推進機構)の「IT人材白書2017」によれば、米国ではITエンジニアの65%がユーザー企業に所属しているのに対して、日本では72%がITベンダーに所属しています。このため、新しいビジネスを立ち上げようと思ったときに、米国なら社内にITエンジニアがいるので、すぐに始めることができるのですが、日本では外部に発注をしなければならないのです。

 大企業の場合は稟議を書く必要があります。稟議を承認してもらうには通常は投資対効果を求められます。新たなビジネスの創出には、さまざまなリスクがあります。「売れないかもしれない(顧客リスク)」、「十分な市場が作れないかもしれない(市場リスク)」、「新たな技術が出てくるかもしれない(技術リスク)」などです。このようなリスクが存在する中でやってみる前から正確な投資対効果を出すことは極めて困難です。とはいえ、新規ビジネスに手を付けないと私たちの将来はありません。

KDDI自身が、改革への取り組みを進める

 そこで、私たちKDDIがどのように変化してきたのかをご紹介しましょう。
 
 例えば、スマートフォンで動くアプリケーションを作るとします。KDDIのかつてのやり方では、まず企画部門が市場分析をし、各部の調整をしてサービス仕様を作り、企画会議にかけます。社内の承認が取れたら、開発部も外部に要件定義を書いて発注します。半年ぐらいたってようやく出来上がって、運用を開始し、プロモーションをするという流れです。
 
 しかし、この方法ではさまざまな問題が起きていました。例えばオーバープランニングです。ベンダーに発注した後に必要な機能が出てくると追加で稟議を取らなければなりません。そうなると面倒なので、必要そうな機能を想定して最初に全部入れてしまうのですが、これでは使われない無駄な機能も作ってしまうことになります。

 また、開発を行うベンダー側では、いかに仕様書に沿って納期通りに作るかがミッションになりますので、作ること自体が目的化してしまいます。企画後は、ユーザー不在の状態で開発が進んでしまうのです。さらに販促時、サービスができあがってきたときには、すでに市場が変わってしまっていて売れないということが起こっていました。

 この状況を変えるために私たちは2013年からサービス開発のプロセスを変えていきました。それは一口で言えば「アジリティ(Agility:敏しょう性)の高いサービス開発」です。従来のサービス開発では、商用リリースに向けてリスクが高まり、コストも積み上がります。リリース後にリスクが解消されコストが回収できればいいのですが、万一仮説と市場のギャップが大きいと積みあがったコストがサンクコスト化して致命傷になります。

アジリティの高い開発体制に転換

 一方でアジリティの高い開発とは、小さく何度もリリースをし、そこで賢く失敗することで、学びを得て改良を繰り返すというスタイルです。極論すれば、途中でこのサービスが世の中に求められていないと分かれば、早期に撤退して別の新しいサービスに貴重な経営資源を振り分けることもできるのです。不確定要素を多く含む新規事業開発にはこういったアジリティの高い開発が適しています。

「アジリティの高いサービス開発」を行うには組織改革も必要です。というのも、現場が決裁権を持っていなければ、発注などの際に毎回上長に承認を取る必要があり、なかなか進まないからです。さらに、ヒエラルキーのある階層組織で管理型の開発を行うと、縦割りの組織の中で、企画、開発、運用など、それぞれの部門の利害が一致しないため、うまくいきません。

 私たちはそこでまず、各部門から人材を集めた小さなチームを作りました。そして、既存事業から分離するとともに、権限も委譲しました。つまり、このチームの中で話し合って自分たちの判断で新しい機能を実装していいし、自分たちの判断でリリースをしていいとしたのです。スモールチームで自律的な企画開発を行うわけです。

 具体的には、プロダクトオーナーが「こんなサービスを作りたい」と言うと、さまざまなバックグラウンドを持ったエンジニアが、「この技術を使ってこんなやり方が考えられる」とか、「こんなデザインがいいのではないか」と案を出し合いながら実装していきます。

 1~2週間くらいの単位でサービスをリリースし、ユーザーからフィードバックを得て、また次の1~2週間で改善を繰り返していくというスタイルで、全てがチーム内で完結する状態に変えてきました。

 このやり方は非常にうまくいきました。意思決定が早くなったことで開発スピードが上がり、また、本当に必要な機能だけを実装するため、コストも大幅に削減できました。さらに、アジャイル型企画開発を始めた2013年当時は、5人のチームが1つしかなかったのですが、今では「アジャイル開発センター」という専任の組織ができ、20チーム(200名)という陣容に拡大しています。

 また、自律的な開発と言いましたが、内製で開発するだけでなく、それぞれの分野の優れたプロフェッショナル企業との連携も進めています。例えば、「IoTの通信を使ってセンサー情報をクラウドに上げてデータベースに蓄積してグラフで見える化する」といったことをやろうと思ったときに、ゼロから作ると場合によっては何週間もかかりますが、既存のIoT基盤を活用することにより、数時間でできます。

 ただし、アプリケーションのユーザーインターフェースなど、ユーザーにタッチするポイントは非常に重要なので、外注せずに中に持つようにしています。コア(内製)とノンコア(外部利用)の見極めが大事です。

 さらに、デジタルは何のために存在するのかと言えば、やはり人のためです。人が幸せになったり人が困っていることを解消したりすることが最大の目的です。何を作るか、どんな技術を使うかではなく、誰のどんな課題を解決するかに常にフォーカスすることがとても重要です。

お客さまと一緒になって開発する「KDDI DIGITAL GATE」

 私たちが5年以上を掛けて蓄積してきたノウハウをもとに、今度はお客さまと一緒にやっていこうと考え、2018年に「KDDI DIGITAL GATE(デジタルゲート)」を東京・虎ノ門に開設しました。

 具体的には、まずはデザイン思考をベースにしたワークショップでお客さまと一緒にユーザーの潜在的な課題や願望をユーザーの行動から見つけ出し、コンセプト策定を行います。その後、アジャイル型企画開発手法の1つである“スクラム”を活用したPoC(概念実証)開発を行い、実装と学習と改善のループを繰り返して漸進的に商用化を目指して行きます。

 ワークショップでは徹底的にユーザー視点にこだわって、お客さまとコンセプトを固めていきます。また、KDDI DIGITAL GATE でのPoC開発では、毎朝プロダクトオーナーと開発チームが一緒になってその日1日の開発計画を立てて、日中は、開発チームは開発を行い、プロダクトオーナーは前日に開発したものをユーザーに評価してもらいます。夕方にはまた全員が集まって、その日に開発したもののレビューを行い、1日の活動に対してチーム全員で振り返りを行います。このような毎日を過ごすことで、ユーザーに必要とされるソフトウェアやアプリケーションを短期間で効果的に形にすることができます。

 デザイン思考やスクラムといった、企画開発ノウハウに加え、IoTやAI、さらに5Gなどのデジタル技術を使った実験や体験ができる環境がそろっており、必要とあらばすぐにKDDIグループのプロフェッショナル企業がチームに参加する体制があることも大きな特長です。

「KDDI DIGITAL GATE」から生まれた共創事例

 ここで、KDDI DIGITAL GATEから生まれた事例をご紹介します。路面電車や乗合バスを運営する広島電鉄さまでは約300台の路面電車を運用しており、その乗務員の勤怠管理は乗務員管理者がほぼ手作業で行っていました。しかし近い将来に管理ノウハウを持った社員が、高齢により大量退職するというリスクがありました。

 そこでKDDIでは、ダイヤ情報を自動的に取得するとともに、スマートフォンのGPSを利用して乗務員の業務の終了時間を自動検知し、自動で勤怠情報を送信できる仕組みを作りました。この取り組みでは、コンセプト策定を行って、3週間でプロトタイプを開発し、現在、実際の運行現場にて実験的に稼働中です。
 
 また、人材紹介、新卒・中途採用支援などのサービスを提供しているパーソルキャリアさまは、採用後の定着支援を行う「HR Spanner(エイチアールスパナ―)」のβ版を2019年9月にリリースしました。

 同サービスは当初、大企業向けを想定していましたが、PoC開発で制作したプロトタイプをもとに顧客企業にヒアリングしたところ、中小企業の方でのニーズが高いことが分かり、すぐに方向修正しました。

 このように、アジャイルに進めることで、市場の声に臨機応変に対応しながら短期間で開発することが可能になります。実際に、このプロジェクトもコンセプト策定からプロトタイプ開発、ユーザーインタビューを経て、プロトタイプのリバイスまで1カ月で完了しています。

「KDDI DIGITAL GATE」での取り組みはお客さまからも高い評価をいただいており、2019年には大阪、沖縄にも拠点を拡大しました。5G時代の到来を見据え、さらに多くの企業との共創を加速していきたいと思っています。ご興味があればぜひご連絡ください。

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