文=今村正治
ラグビーに湧く街
昨年、日本中が沸いたラグビーワールドカップ。僕は、結局ゲームを観戦する機会に恵まれることはなかったが、滞在していた大分県別府市では空前の盛り上がりを目の当たりにした。ニュージーランド、イングランド、オーストラリア、ウエールズ、フランス・・・強豪チームのサポーターが街中に溢れていた。連日連夜、明け方まで歓声と歌声が響いていた。一体ビールは何万缶空いたのだろうか。トイレはどうしたんだろうか? とにかく市民は、サポーターたちの鯨飲ぶりに驚嘆しながら、楽しそうだったなあ。僕も調子に乗って、イングランド女子とオアシスの曲をカラオケで熱唱。いや〜楽しかったな。どこのどなたに言えばいいのかわからないけど、ワールドカップに感謝です。で、この盛り上がり方は日本のどこでもかと思いきや、その後訪問した他の街ではそんなでもなかった。
そういえば、喧騒の中で「別府だからね〜」、「別府らしいな〜」と言う声をよく聞いた。それにはわけがある。
グローバルとローカルの相性
「グローバルとローカルは実は相性がいい」と言った御仁がいるのだが、これは別府で発せられた言葉。いくら連載のテーマが、GLOBAL & LOCALだからといっても、いきなりいっしょくたにするなんて強引だろとお思いかも知れないが、ま、しばらくのお付き合いを。
僕は昨年春まで、2度にわたりあわせて十数年別府に住んでいた。大学の仕事をしていた。今から20年ほど前にできたAPU・立命館アジア太平洋大学である。世界約90カ国からの留学生3000人が学生の半分、教員の半数も外国人という大学である。大分県と別府市と学校法人立命館の共同による、始めた頃には荒唐無稽とまでいわれた難易度無限大のプロジェクトである。大学の創設物語は今回脇に置くが、とにもかくにもAPUは開学し、歴史を重ね、今日グローバル大学として国内外に強烈な異彩を放っていることは間違いない。
まあもともと温泉街の山の上の大学がうまくいくなんて思っていた人はほとんどいなかったし、最先端のグローバル大学にローカルな温泉街が似合うなんて想像もできなかった。
そんな僕が今は、APUは別府だからこそやってこられた、むしろ別府でなければならなかったとさえ思うようになっている。
未来の新しい価値観、常識を生み出す大学には、今の価値観の中心部である大都市は似合わない、辺境こそがいい。そして多様な国、地域からの学生が学び、市民として生活する場所としても、コンパクトで自然豊かで優しい人がいる地方がいい。それはもはや確信になっている。偶然ではあったが、別府はとびきりに相性の合う街なのだ。