エースではなかった山下と其田がマラソンで成功できた理由

 大学時代、藤田敦史や東京五輪マラソン代表の中村匠吾(富士通)は「エース」と呼ばれるような存在だった。しかし、山下と其田はそうではない。ふたりはどのようにしてマラソンで成功を収めたのか。

山下一貴(三菱重工) 写真=つのだよしお/アフロ

 山下はスピードがないことを自覚しており、駒大に入学してすぐにマラソンを意識したという。箱根駅伝は花の2区を3年連続(2年時13位、3年時9位、4年時13位)で務めるなど、駅伝ではタフな区間を任されることが多かった。

「山下はすごく食が太かったんです。いっぱい食べて、しっかり練習できる。『将来はマラソンだ!』と本人にもずって言ってきました。箱根で2区を任せたのは、プレッシャーに強くなってほしいし、マラソンで成功してほしい、という願いもあったんです。いい経験をさせたかなと自分でも思っています」(大八木監督)

其田健也(JR東日本) 写真=つのだよしお/アフロ

 一方の其田は青森山田高3年時に5000mで13分55秒91(2011年度の日本人トップ)をマーク。当初はトラックで勝負しようと考えていたという。

「其田はスピードタイプでしたし、ちょっと跳んだ走りをしていたので、マラソンはどうかなと思っていたんです。だから本当に努力の選手かなと思いますね」(大八木監督)

 其田は箱根駅伝に出場するために意識してスタミナ面を強化。2年時に10区2位、3年時に9区3位、主将を務めた4年時は1区13位という結果を残している。大学時代から月間で「最低900㎞」は走っていたが、実業団でも「日頃のジョグが大事」とコツコツと練習を積み上げてきた。

 学生時代のキャラが異なるふたりは箱根駅伝で大活躍できなかったが、マラソンでは世界を目指せるレベルに到達した。

 

駒大OBはお互いに意識しあう関係

 駅伝だけでなく、マラソンでも存在感を発揮している駒大勢。そこには大八木監督の〝指導理念〟が大きく影響している。

「選手たちには箱根だけでなく、『世界陸上やオリンピックを狙え!』と言ってきましたし、大学では伸びしろを残してトレーニングさせています。特にマラソンをやる選手には実業団に行ってから伸びるぞ、という話をしてきたので、そういう結果が出て本当にうれしいですね」(大八木監督)

 大八木監督から「将来はマラソンで勝負するぞ!」「世界を目指すんだ!」という声をかけられてきた駒大の選手たちは実業団でも高い志を持って競技に取り組んでいる。

「駒大出身者はエントリーが出た時点で気になる存在です。特に其田さんは初マラソンのときに1秒差で勝ったんですけど、昨年の東京では、自分が大阪で出した記録を抜かれているので、今回は勝ちたいなと思っていました」(山下)

 ふたりは一昨年のびわ湖毎日マラソンで1秒差の大接戦を演じている。初マラソンの山下が2時間8分10秒、其田が自己ベスト(当時)の2時間8分11秒をマークしているのだ。今回は現役学生である山野力(4年)が初マラソンに挑戦。2時間16分25秒に終わったが、日本新ペースに25㎞まで食らいついた。

「山野は30㎞まで先頭集団で行って欲しかったんですけど、マラソン練習はそこまでしていません。九電工に入社するので、大塚(祥平)の後を追って、マラソンでも頑張ってほしいなと思います。山下と其田はもう少しで世界陸上やオリンピックの代表になれるところまできている。とにかく日本代表の座を取ってほしいなという思いです」(大八木監督)

 箱根駅伝だけでなく、マラソンでも勝負する。王者・駒大の〝本当の強さ〟を見た気がした。