重要なのは航続距離

 EVを普及させる上で最も重要とされるのが航続距離で、タイカンの「ターボS」では最大412km。ちょっと動力性能の控えめな「ターボ」だと、最大450kmとされている。使用状況によって、実際は半分程度になったとしても、いずれも200kmは走れる。つまり、十分実用に使える数値だ。

 ちなみに、この分野の先駆たるテスラ・モデルSは、タイカン同様、前後アクスルに1基ずつ電気モーターを備える4WDで、その最高性能モデルは0-100km/h加速、なんと2.6秒を豪語する。ここで注目したいのは、後出しなのにポルシェがモデルSの加速を上回ろうとしなかったことだ。その代わり、イタリアの高速走行専用コース「ナルド」で耐久テストを行ったりして、ポルシェ・ブランドにふさわしい信頼性を得ようとしている。ナルドでは、急速充電とドライバー交替のための一時停車を除き、ドライバー6人でプロトタイプを24時間走らせ、3425kmを走破。平均速度は195-215km/hに達したという。

 技術面での特徴は、システム電圧を市販型フル電動スポーツカー初の800Vとしたこと。ル・マン24時間レース3連覇を遂げたポルシェ919ハイブリッドのテクノロジーが市販モデルに搭載された、と誇らしげにプレスリリースにある。電圧というのは「電気を押し出す力」のことで、これまでのEVはシステム電圧400Vというのが一般的だった。ご存じのように日本の場合、家庭の電圧は通常100Vである。つまり、 タイカンは家庭用の8倍強力に電気を押し出す力を備えている。電気を押し出す力が強ければ、それだけ安定的な高性能や充電時間の短縮が実現できるのも道理だろう。

 それにしても、電気自動車というと、空気を汚さないクリーンなおとなしい乗り物、というイメージを大いに裏切って、いや、そこは裏切ることなく、サステイナブルという錦の御旗を掲げつつ、911ターボSを上回る加速性能を持つ、しかも4ドアの、ということは実用性の高い、とんでもないスポーツカーをつくってしまう彼らの発想と実行力はスゴイとしか申し上げようがない。

 

急速に進む電動化

 電動化の流れはスーパーカーの世界でも、もはや押しとどめようがない。フェラーリはSF90なるV8プラグイン・ハイブリッドを、ロータスはエヴァイヤ(Evija)なる2000psのEVのハイパーカーを発表している。 わがニッポンにはホンダNSXがある。

 いまさらながら、自動車の電動化は急速に進んでいる。たとえば、本年6月初めに複数のメディアがこう報じている。経産省と国交省が国内の自動車メーカーに対して、2030年度までに2016年度の実績値より32%、燃費を改善せよ、そう義務づける新たな燃費基準を定めたというのだ。この燃費基準が発効すると、新車の平均燃費は、ガソリン1リッター当たり25.4km走行しなければならない。あくまで、そのメーカーの全車種の平均で、である。

 この報道のあとの6月7日に、トヨタは記者会見を開いて、次のように発表した。いわく、2030年にHV(ハイブリッド)/PHV(プラグイン・ハイブリッド)を450万台以上、EV/FCV(燃料電池車)を100万台以上販売する、という2017年12月に発表した計画を、5年前倒しして、2025年の目標とする、と。

 EVであれば、走行時の化石燃料の使用はゼロだから、3台に1台がEVとなれば、残りの2台は放っておいても、新規制を達成できる。できるけれど、EVは問題山積で、たとえば、充電施設のインフラもまだまだ足りない。電池をこの台数分確保するだけでもたいへんである……。

 というようなことを大手メーカーは思案しているあいだに、ポルシェはテスラを追撃する高性能エレクトリック・スポーツカーを、ヨーロッパでは年内にも発売する。ニッポン上陸は来春の予定だ。

 トヨタのような巨大な組織が計画を5年も早め、全生産台数のおよそ半分をハイブリッド、ないしは電動化する。ポルシェがタイカンを出すより、トヨタのほうがタイヘンなのかもしれない。けれど、結局は魅力のある商品を出しちゃったほうが勝つ!と筆者なんぞは思う。

 タイカンのキャッチフレーズは、“Soul, Electrified”である。「魂、(電気で)しびれるような」という意味である。電気自動車は退屈、という概念をぶっ飛ばすクルマであることが期待される。♪シ~ビレチャッタ、シ~ビレチャッタ、シビレチャッタヨ~とシビレたいものである。