画像:Japan Innovation Review編集部作成
将棋に「定石」があるように、ビジネスには経営学者や実務家によって開発された「フレームワーク」がある。思考を助ける枠組みであり、アイデア創出やニーズの発見、課題の洗い出し、戦略立案、業務改善など、活用シーンはさまざま。その概要と使用法を心得ておくことが、ビジネスパーソンにとっての大きな武器となる。
本連載では、事例・参考例が豊富な『ビジネスフレームワークの教科書 アイデア創出・市場分析・企画提案・改善の手法55』(安岡寛道、富樫佳織、伊藤智久、小片隆久共著/SBクリエイティブ)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第7回は、企業や事業の現状を把握し、事業戦略を検討する分析手法、「クロスSWOT分析」を紹介する。
<連載ラインアップ>
■第1回 斬新な着想を得るための「ランダム刺激発想法」とは?
■第2回 商品開発のプロセスに顧客を巻き込む「コミュニティ共創法」と実施のポイントは?
■第3回 顧客の「欲しい」を見つける「バリュー・プロポジション・キャンバス」の使い方とは?
■第4回 ライバルとの比較で独自のビジネスを構想する「戦略モデルキャンバス」の使い方とは?
■第5回 「儲ける仕組み」と「コスト構造」を明らかにする「収益モデル」の使い方とは?
■第6回 新たな成長戦略の策定に活用できる「アンゾフの成長マトリクス」とは?
■第7回 経済学者H・ミンツバーグが提唱したSWOT分析の発展形とその使い方とは?(本稿)
■第8回 注力すべき事業・商品・顧客が分かる「パレート分析」とは?
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クロスSWOT分析 概要
『ビジネスフレームワークの教科書』(SBクリエイティブ)
クロスSWOT(スウォット)分析とは、SWOT分析のS、W、O、Tをそれぞれ掛け合わせて、今後の事業戦略の方向性を検討する方法です。
先にSWOT分析について解説します。
■ SWOT分析
SWOT分析の「SWOT」とは以下の4項目の頭文字です。
- Strength(強み)
- Weakness(弱み)
- Opportunity(機会)
- Threat(脅威)
SWOT分析では、自社の内部環境(社内リソースなど)と、外部環境(取り巻く競合など)を見ながらこれらの4項目それぞれについて洗い出し、4象限の表にまとめます。このとき、次のように考えると使いやすく、課題が見えてきます。
- 過去~現在の内部環境の分析から、S(強み)とW(弱み)を導き出す
- 現在~今後の外部環境の分析から、O(機会)とT(脅威)を導き出す
SWOT分析を行うと、企業全体や個別事業の現状を把握し、戦略を策定できます。より具体的には、新たな事業をはじめる際に、その担当者が自社のプラス要因である「強み(S)」を明らかにして今後を検討する場合や、反対に自社のマイナス要因である「弱み(W)」を明らかにして今後を補う場合に活用できます。また、今後のビジネスチャンスである「機会(O)」や、リスクである「脅威(T)」を考え、対策する場合にも用いることができます。
なお、SWOT分析において、S(強み)とW(弱み)に「他社と似た内容」を挙げてしまうケースが散見されますが、それでは意味がありません。クロスSWOT分析によって、他社とは異なる「差別化した戦略」を策定するためにも、特にS(強み)には、他社にはない自社の特徴を具体的に挙げることが重要です。
【ここがポイント!】
自社のS(強み)には、他社にはない特徴を具体的に挙げる
【Memo】
SWOT分析は、経営学者のヘンリー・ミンツバーグが提唱したものですが、ビジネス上の戦略策定プロセスとして明確になったのは、ハーバード・ビジネススクールのゼネラルマネジメント・グループのケネス・R・アンドルーズらによって書かれた『Business Policy: Text and Cases』(1965年)からだといわれています。
■ クロスSWOT分析
SWOT分析の発展形であるクロスSWOT分析では、外部環境や内部環境をまとめるだけでなく、それぞれの掛け合わせ(クロス)であるS×O、S×T、W×O、W×Tについて検討します。そうすることで、今後挑戦できる事業領域(ドメイン)を導き出すことができ、ひいては自社の事業戦略を策定できます。
使い方
クロスSWOT分析では、次の順序で各項目を記入していきます。
① S×O
S×Oとして、自社の強みを機会(ビジネスチャンス)に投入して、どう生かすかを考えます。これにより「積極展開すべき事業戦略」を策定でき、他社と差別化していくことができます。積極展開とは、事業機会に対して自社の強みを最大限に生かすことです。
S(強み)はその企業の武器であるため、S(強み)をO(機会)に投入することがとても重要です。自社の強みをビジネスチャンス到来のタイミングに投入できれば、他社よりも有利になります。
例えば、自社の技術力を市場のトレンドにタイミングよく投入することによって、他社よりも高性能の製品を売り出せます。
② S×T
S×Tとして、強みを利用して、脅威を回避することを考えます。脅威を認識する必要があるため、「段階的施策」の展開となるでしょう。段階的施策とは、自社の強みを利用して、脅威を徐々に避けることです。
例えば、自社が参入している市場が縮小している場合、自社の資金力や技術力などの強みをもとにして、製品の投入先を徐々に別の市場に鞍替えしていきます。
③ W×O
W×Oとして、弱みを克服して、機会に投入することを考えます。機会はどの企業も狙っているため、いかに弱みを克服して「差別化」できるかがカギになります。
例えば、自社の弱みが「実績があり過ぎて保守的になり、他の市場への展開を躊躇している」である場合、しがらみのない新規事業部門を立上げることで、市場のトレンドに合った製品を投入します。
④ W×T
W×Tとして、弱みを克服して、脅威を回避することを考えます。このケースでは「守備・撤退」することも検討します。
例えば、利益率は低いが提供し続ける必要のある製品・サービス(例:航空会社の地方路線)がある場合、数を減少(例:航空路線の減便)させて維持します。
また、赤字でも提供し続ける必要のある事業は、事業を他社へ売却するなどして撤退します。
【Memo】
中小企業の場合は、自社のW(弱み)のクロス部分(W×O、W×T)を検討しても、ようやく他社と同じになる場合が多く、なかなか次のビジネスにつながりません。また、S×O、S×T、W×O、W×Tのすべてを詳細に検討しても、リソースが十分にない場合は、後々実行ができなくなります。そのため、中小企業の場合は、全部に手を出すのではなく、まずはS(強み)をO(機会)に投入することに専念してください。
事例・参考例:日産自動車
日産自動車(以降、日産)は、日本の大手自動車メーカーです。北米や欧州などの約50か国では高級車ブランドの「インフィニティ(Infiniti)」を展開しており、また、新興国向けには低価格ブランドの「ダットサン(Datsun)」を展開しています。
ここでは、日産のPEST+5フォース分析による外部環境分析や知りうる内部環境分析をもとにして以下のようなクロスSWOT分析を行いました。
まず、S(強み)として、半自動運転の技術力や三菱自動車、仏ルノーとの連携・分業、女性目線の自動車という新ジャンル開拓などがあります。
また、自動車産業のO(機会)として、新技術開発の要請やサブスクリプション(定額料金支払の会員制サービス)市場の拡大などがあります。
これらをもとにクロスSWOT分析を行うと、S×Oでは、AIの自動運転やコネクテッドカーの基盤整備、サプライチェーンの新技術対応、新ジャンルのさらなる開拓などが挙げられます。
他の方向性として、S×Tでは、MaaS(Mobility as a Service)への主体的な取り組みがあります。そうしなければ、社会が欲するMaaSの動きから取り残されてしまうため、自ら入り込んでいくのも有効でしょう。
また、W×Oでは、ディーラーの顧客情報管理があります。メーカーは顧客と接する機会が少ないため、顧客情報を管理してリピートなどを促す必要があるでしょう。W×Tでは、リピーターのみならず、その家族までの囲い込みなどが挙げられます。
<連載ラインアップ>
■第1回 斬新な着想を得るための「ランダム刺激発想法」とは?
■第2回 商品開発のプロセスに顧客を巻き込む「コミュニティ共創法」と実施のポイントは?
■第3回 顧客の「欲しい」を見つける「バリュー・プロポジション・キャンバス」の使い方とは?
■第4回 ライバルとの比較で独自のビジネスを構想する「戦略モデルキャンバス」の使い方とは?
■第5回 「儲ける仕組み」と「コスト構造」を明らかにする「収益モデル」の使い方とは?
■第6回 新たな成長戦略の策定に活用できる「アンゾフの成長マトリクス」とは?
■第7回 経済学者H・ミンツバーグが提唱したSWOT分析の発展形とその使い方とは?(本稿)
■第8回 注力すべき事業・商品・顧客が分かる「パレート分析」とは?
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