少しでも追いつく、追い抜く
「過程」という考えは、今シーズンも変わっていない。グランプリシリーズ開幕前の会見で、鍵山はMCを務めた宇野昌磨の表現力について触れつつ、こう語っている。
「やっぱり(宇野の)固定の表現にとらわれないっていうのがすごく僕の好きなところで、それに憧れていました。僕も得意分野はあってもいいと思うんですけれども、自分のあえて今までやってこなかったようなジャンルのプログラムに挑戦することによって、より自分のことを深く知れるというか、自分でこういうこと、意外とできるんだなみたいなこともシーズンを通して分かったりするので、そういう過程がすごく楽しいです」
NHK杯でもそこに通じる場面があった。公式練習で4回転ルッツを跳んで着氷したことだ。まだ試合には取り入れていないが近い将来組み込もうと練習で取り組み続けているジャンプだ。
「観客席にいろいろな関係者の方が座っていたので、これはやってアピールした方が、と。『今後に向けて練習しているんだな』というのをアピールするために、やっておこうと思いました」
それもまた、今を過程ととらえ、そして挑戦し続ける姿勢の表れだろう。
ミラノでの金メダルを。その目標をかなえるためには避けて通れない選手がいる。イリア・マリニン(アメリカ)だ。マリニンは昨シーズンの世界選手権フリーで4回転アクセルをはじめ5種類の4回転ジャンプ6本を成功させ、227.79点で世界歴代最高得点を更新、総合でも世界歴代2位の333.76点で優勝、能力を存分に示した。
「(マリニンは)先シーズン、ほとんどの試合で300点以上を出すようなパフォーマンスをして、どうしてもマリニン選手との差を意識するという部分がたくさんありました。今シーズンは少しでも追いつく、追い抜く、というパフォーマンスができるように頑張りたいです」
そのためにも、挑戦し続け、成長を期して進んできた。
フィンランディア杯は、NHK杯から連続での試合という厳しい状況でもあったが、本人はそれを言い訳としない。ただただ、自分の出来を悔いたのも、目指す場所が分かっているからだ。
悔しさを残したフィンランディア杯の中にも成果はあった。ショートプログラム『The Sound of Silence』は「ほんとうに静かな曲なので、最大限魅せないと平坦に見えてしまいます」。難易度をそう表していたが、試合を重ねるごとに持ち味のスケーティングと合わさり、観客を引き込んできた。それはたしかな前進だ。
次戦は昨シーズンに続き、進出を決めたグランプリファイナル。真の強さと真摯なスケートへの姿勢を持つ鍵山優真は、フィンランディア杯の悔いを晴らし、そして未来を広げていくために臨む。