文=松原孝臣
欠場したシーズンも「焦りはなかった」
11月16日、フィギュアスケートのグランプリシリーズ第5戦、フィンランディア杯(フィンランド)の男子フリーが行われ、鍵山優真が優勝。前週のNHK杯に続き連勝し、シリーズ上位6名が出場できるグランプリファイナル進出も決めた。
ただ、優勝を決めたあと、笑顔はなかった。
「悔しい気持ちが強くて、今シーズンでいちばん悪い、フリーの出来でした」
この日は、最初の4回転フリップが2回転に。4回転サルコウでも着氷が乱れ、そのほかのジャンプでもミスが出た。結果、NHK杯であげたフリーの194.39点から159.12点と大きく下がり、フリーでは5位。首位だったショートプログラムの得点をいかしての優勝だった。喜ぶことはできなかっただろう。
今シーズン、鍵山はさらなる成長を期して進んできた。
「とにかく1試合1試合の質を高めていくことを大事にしたいですし、1試合目から300点台や、納得できる演技ができるようにと思っています」
すべての試合でハイレベルの演技を誓った根底には、心に抱く目標があるからだ。来シーズンに控えるミラノ・コルティナオリンピックである。
2022年の北京オリンピックで銀メダルを獲得した鍵山は、試合を終えた翌日、こう語っている。
「(2026年)ミラノ(五輪)での金メダルが目標です」
そのときの思いをのちに明かしている。
「銀メダルを獲れたことはうれしかったですし、日本に帰ってからみんなに『おめでとう』と言ってもらえたのもうれしかったです。ただ、やっぱり銀メダルで終わりたくないという気持ちが強かったので、次は金メダル、という考えになりました」
その思いは出鼻をくじかれた。北京オリンピックの翌シーズン、左足首の怪我でグランプリシリーズを欠場。年末の全日本選手権に出場したが8位にとどまり、世界選手権代表入りもならなかった。
それでも「焦りはなかったですね」と振り返る。
「むしろ体作りや栄養に関してより知識を得るなど大事な時間になったのでよかったです」
試合に出られない日々に、焦燥感に駆られずむしろ前向きにいかせたのも、大きな目標への過程と捉えられたことにあった。