ファンが魅了される「富久長」の温かさ、やわらかさ
明治元(1868)年、安芸津町三津に創業した今田酒造本店の銘柄「富久長」は、三浦仙三郎によって名づけられた。その持ち味は、軟水によるやわらかさと繊細さ。また、「富久長」といえば、100年以上姿を消していた広島の酒米、八反系最古の在来品種「八反草」を復活栽培させ、商品化に成功したことでも知られる。温かみのあるやわらかな味わいと、心地よい余韻、そして軽やかさに魅了され、とりつかれてしまった日本酒ファンも多いにちがいない。
そんな今田酒造本店が醸すスパークリング日本酒の「白美」は、カジュアルな魅力を放つ個性派酒。いまどきの新しいタイプの日本酒なのかと思いきや、じつは誕生したのは1980年代というクラシック・アイテム! 4代目であり杜氏の今田美穂さんに、そのなりたちを教えていただいた。
1980年代に誕生したクラシック・スパークリング
「白美は40年近く前、私の父の代に開発されました。おそらく、もっとも早い時期に誕生したスパークリング日本酒のひとつだったと思います。瓶内発酵させる製法で、当初は生酒でしたが、ガスボリュームを安定させることが難しく、毎年調整を進めながら現在の形にたどり着きました。現在は火入れをしています」
瓶内発酵といっても、瓶内に酵母と糖分を加えて2次発酵させるシャンパンなどの製法と違い、日本酒は瓶詰め後に何かを足すことが酒税法上で許されていない。そのため生酒を瓶に詰めたあとは何も足さず、生き続けている酵母によって1次発酵を継続させることで炭酸ガスを瓶内に充満させる。ある程度ガスがたまったところで、酵母を失活させるために熱処理している。
「ふつうの日本酒の瓶では、火入れをするとガスボリュームが高くなって耐えられず、破裂してしまうため、瓶もキャップも耐圧性の高い炭酸飲料用の瓶を採用しています」
瓶詰めしてからガスがたまるまでの期間は、外気温や酒の状態によっても変わるため一概には言えないが、1か月ほどかかるという。
バーベキューにも辛口純米のスパークリング
「白美」の泡は、シュワシュワとした爽快さがありながらもやさしい。キンキンに冷えていなくとも、開栓時にキャップが勢いよく飛んで吹きこぼれる心配はほぼない。絶妙なガス圧なのだ。
乾杯酒としてはもちろん、ドライなキレ味と絶妙なガス感が、食中酒としても魅力を発揮する。まだ暑さが残る時期、バーベキューなどのアウトドア料理と合わせるのもきっと最高だろう。
「天ぷらや焼き魚といった和食はもちろん、意外なところでは餃子も合いますよ。カジュアルに楽しんでいただけたらと思います」
と今田さん。季節の味覚とともに、ドライな辛口純米のスパークリング日本酒を楽しもう。