作品に込められた深いメッセージ

 生前、「耳を澄ませば、世界が動いている音が聴こえてきます」と語っていたフォロン。自然を愛した彼の作品には、戦争や環境問題をテーマにしたものも多い。伐採された木が大地を埋め尽くす《たくさんの森が》、誇らしげに指でOKサインを示すニクソン大統領の歯が実はミサイルでできている《ニクソンの勝利》。フォロンの作品には穏やかな色合いで人の心を和ませると同時に、「シビアな現実から目をそらすな」というメッセージが込められているように思える。

《グリーンピース 深い深い問題》1988年 フォロン財団
©Fondation Folon, ADAGP/Paris, 2024-2025

 フォロンはメッセージを発信する媒体として、ポスターに強い関心を示した。企業や公共団体の依頼で制作したポスターは600点以上。これらのポスターがまた、強烈なインパクトをもっている。環境保護団体グリーンピースのポスター《深い深い問題》の舞台は、虹がかかった青い海。水中には魚の群れが……と思いきや、実は魚ではなく魚雷の群れ。こういった具合に、静かな抗議とも言うべきフォロンのメッセージが発信されている。

 

『世界人権宣言』を視覚化した挿絵

《『世界人権宣言』表紙 原画》1988年 フォロン財団
©Fondation Folon, ADAGP/PARIS, 2024-2025

 1988年、フォロンはアムネスティ・インターナショナルから『世界人権宣言』の挿絵制作を依頼された。『世界人権宣言』は世界で500を超える言語に翻訳された、すべての人間の自由と権利を守るための30条。この30条を視覚化するのにフォロンは最適のアーティストだと考えられたのだろう。

『世界人権宣言』の挿絵は、宣言の内容を世界中の人々が理解できるよう、わかりやすく絵画化されている。第14条(逃げるのも権利)では鉄格子が切断された檻が、第30条(権利を奪う「権利」はない)では手のひらから飛び立つ鳥が描かれている。未来は明るく、幸せに満ちているようだ。

 だが、大部分の挿絵には権利や自由がないがしろにされた生々しい現実世界が象徴的に描写されている。自由に空を飛ぶ白い鳥と絞首台で首を吊る人々の対比が強烈な第3条(安心して暮らす)、巨人化した拷問官と小さな人間が向き合う第5条(拷問はやめろ)。

 《月世界旅行》1981年 フォロン財団
©Fondation Folon, ADAGP/PARIS, 2024-2025

 フォロンの死から約20年。人々は抑圧、暴力、差別といった問題を解決・改善するために、試行錯誤を重ねながらも立ち向かい続けている。だが、戦争は今もこの世からなくならない。フォロン展が30年ぶりに開催されたのは、必然の出来事なのかもしれない。