太夫の息遣いを体感したいなら、「床」近くの席を

豊竹若太夫の幟が立てられた、襲名披露公演中の国立文楽劇場(大阪府大阪市) 写真=福持名保美

 大阪、東京の文楽チケットを入手するには、国立劇場チケットセンターが便利。会員登録は無料で、WEBで24時間、好きな席を選んで買うことができ、チケットはコンビニ発券も選べる。当日券は会場で購入可能。また、大阪・国立文楽劇場には、1幕だけの「幕見席」もあり、ちょっと時間が空いたときに観に行くこともできる。お値段も1幕1,000円から2,500円程度とトライしやすい。

 歌舞伎ではとちり(7~9列目)の正面、やや下手(客席から見て左側)寄りの、花道に近い席が良席といわれる。文楽は前方の席が人気だが、なかでも上手(客席から見て右側)席から埋まっていく。できるだけ太夫と三味線が座る「床(ゆか)」の近くで、その息遣いと響きを体感したいファンが狙うからである。

 人形を間近で観るなら正面の5列目くらいまでをおすすめしたいが、国立文楽劇場はスロープ状で、一部を除き席の段差がない。座席は千鳥配列になっているものの、小柄な方だと前の人の頭で舞台が見えない可能性もあるので、真ん中より左右どちらかに少し寄った席を選んだほうが無難。最前列は人形の細かい仕草や表情の変化がよく見えて感動するが、初めてなら、やや引いて観られる席のほうが、舞台全体が目に入るうえ、字幕を見るのに苦労しなくてよいだろう。

 

字幕とプログラムで、ビギナーにも優しい

東京での文楽公演のメイン拠点である国立劇場(東京都千代田区)は、現在、建て替え閉館中。リニューアルオープンが待たれる

 そう、東京と大阪の公演では、字幕が出るのである。これについては賛否両論あるが(字幕に気を取られて舞台そのものを観ることがお留守になる、とか…)、ビギナーにとってありがたいことは確か。浄瑠璃のベースは江戸時代の大坂弁なので、明治以降につくられた標準語とはかなり違う。頻出する仏教用語も、音だけでなく漢字で見れば意味が取りやすい。一瞬字幕に目をやるだけで、ストーリーがすっと頭に入ってくるのだ。

 それでも前知識がないと、字幕をひたすら見つめることになりかねないので、開演前にはプログラムにさっと目を通しておくといい。配役とあらすじなど鑑賞ポイントなどに加え、太夫が語る「床本(ゆかほん)」という詞章まで載っている。また、歌舞伎のようにイヤホンガイドもあり、時代背景や当時の風俗などもタイミングよく教えてくれる。開演前からストーリー解説が始まっているので、ちょっと早めに席につき聞いておくのがおすすめ。

 字幕もあり、プログラムには台本も載っているなんて…と安心した人もいるだろう。文楽はビギナーに優しいのである。この春、ぜひ文楽デビューを!

 

【公演情報】

●令和6年4月文楽公演 国立文楽劇場(大阪・日本橋)
4月6日〜29日(17日は休演)

https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/bunraku/2024/6414.html

・第1部
『絵本太功記(えほんたいこうき)』二条城配膳の段、千本通光秀館の段、夕顔棚の段、尼ヶ崎の段
・第2部
『団子売(だんごうり)』
豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫  襲名披露口上
襲名披露狂言
『和田合戦女舞鶴(わだかっせんおんなまいづる)』市若初陣の段
『釣女(つりおんな)』
・第3部
『御所桜堀川夜討(ごしょざくらほりかわようち)』弁慶上使の段
『増補大江山(ぞうほおおえやま)』戻り橋の段

 

●令和6年5月文楽公演 シアター1010(東京・北千住)
5月9日〜27日(15日は休演)

https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_s/2024/6511.html?lan=j

・Aプロ
『寿柱立万歳 (ことぶきはしらだてまんざい)』
豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上
襲名披露狂言
『和田合戦女舞鶴 (わだかっせんおんなまいづる)』市若初陣の段
『近頃河原の達引 (ちかごろかわらのたてひき)』堀川猿廻しの段、道行涙の編笠

・Bプロ
『ひらかな盛衰記 (ひらがなせいすいき)』義仲館の段、楊枝屋の段、大津宿屋の段、笹引の段、松右衛門内の段、逆櫓の段
※19日(日)よりAプロとBプロの上演順が入れ替わり、開演時間も変更。

 

【そのほかの公演情報を知るには】

●文楽協会

https://www.bunraku.or.jp/

 

【チケットを手に入れるには】

●大阪・東京公演
国立劇場チケットセンター(会員登録無料)

https://ticket.ntj.jac.go.jp

 チケットぴあ、イープラス、カンフェティなどでも取り扱いあり。地方公演はそれぞれの劇場に問い合わせを。

 

【参考文献・参考サイト】

倉田喜弘『文楽の歴史』岩波現代文庫
ドナルド・キーン『能・文楽・歌舞伎』講談社学術文庫
中本千晶『熱烈文楽』三一書房
藤田洋『文楽ハンドブック』三省堂
山田庄一『文楽入門』文研出版
六代豊竹呂太夫/片山剛『文楽・六代豊竹呂太夫 五感のかなたへ』創元社
渡辺保『文楽ナビ』マガジンハウス ほか
公益財団法人 文楽協会
文化デジタルライブラリー

※情報は記事公開時点(2024年4月24日現在)。