群馬県産の食用米を低精白で使用

 2019年、土田酒造は江戸時代からの酒造方法である生酛(きもと)仕込みに100%に切り替えた。現在の「Tsuchida 99」は生酛かつ、酵母無添加。蔵に棲む多様な微生物が、酒母(酛/もと)のなかで生き死にし、その生きた痕跡が複雑な味わいとなって表現される、と祐士さんは考える。生酛の重層的で複雑な味わいは、多様な命が“生きた証”だ。だから、生酛造りは画一的にならず面白いという。

土田酒造では基本的に酒米を使わず、群馬県産の食用米を低精白で使う。「そうすると、麹を強くしなきゃいけない。麹づくりは、蒸した米全体に力強いパワーの遺伝子をもつ種麹をバサッと大量にかけて短時間で仕上げます」と祐士さん。なんと農業用の粉剤散布機(!)で豪快にまき、短時間でたくさんの菌糸に米粒が覆われた“総ハゼ麹”に仕上げる

 ユナイテッドアローズのバイヤー兼ディレクターの鈴木貴至(すずき・たかし)さんは、そんな土田哲学に裏打ちされた「Tsuchida 99」に魅了されたひとり。酒販事業を立ち上げるに当たり、土田酒造にオファーをし、2023年にコラボレーションによる「ツチダ99UAバージョン」が初リリースされた。

 ところで通常の「Tsuchida 99」は酵母無添加だが、「ツチダ99UAバージョン」には、現在最古の市販清酒酵母、6号酵母(きょうかい6号=新政酵母)が使用されている。6号酵母といえば……そう! 日本酒ファンを熱狂させてやまない、かの新政酒造の「No.6(ナンバーシックス)」の酵母である。

 注目の若手杜氏、星野元希さんは6号酵母への思いをこう話す。

「6号酵母は、ピシッと決まった白いシャツのイメージ。シュッとした、スマートな印象の酵母なので、そこがユナイテッドアローズのイメージと重なりました。もともとTsuchida 99は “太い酒”なので、そこに6号酵母の線の細さが加わることでバランスがとれると思いました」

土田酒造の皆さん

 土田酒造が生酛造り100%に切り替えて、5年目。やればやるほど、面白い。外界とつながり、多様な菌が混在する世界は不安定だが、その中から自分たちの解決策を見出すことで、唯一無二の酒が生まれる。

「酒母とは、微生物を繁殖させる培地です。多様な微生物が存在する環境のなかで、そこに余計なものが入ってこようが、“しかるべき者しか立ち上がれない環境”をいかに作るかっていうのが、生酛の本質。生酛の技術はやっぱり凄いんです。現在主流の“速醸法”は、天才的な技術です。それは間違いありません。生酛をやればやるほど、その凄さを痛感します。しかし、僕らは“速醸法”という安定を捨て、違う道を選択しました。なぜならば、僕たちにしかつくれない酒をつくりたいから、です」

意外なところでは濃醇な甘酸っぱさがヤンニョムチキンにもよく合う!