古きよき音楽とそのファッションやカルチャーをコンテンポラリーなスタイルで提示する––––キティー・デイジー&ルイス
5年ぶりの来日公演(即ソールドアウト)、「朝霧JAM 2023」にも出演と、アルバム・デビューから15周年となる今年、嬉しいニュースが続いたロンドンの3ピース・バンド、キティー・デイジー&ルイス(以下、KD&L)。今回は、ロックンロール、ロカビリー、ブルース、ジャンプなどの古きよき音楽を独自に取り入れたヴィンテージ感たっぷりのサウンドと、それに歩調を合わせるようなユニークなファッションがトレードマークのこのバンドの15年を追ってみようと思う。
パーフェクトなデビュー作のときは全員がティーンだった
KD&Lはノース・ロンドン出身のバンド。メンバーは長女のデイジー、次女のキティー、そして長男のルイスという3姉弟で、それぞれがマルチ・インストゥルメンタリストである。10代の前半からロンドンのカントリーとロカビリーのパブで演奏活動をスタートし、2008年にセルフ・タイトルのアルバムをリリースした。このときなんと全員がティーンだったのだが、こうした早熟ともいえるキャリアの背景には、この姉弟の両親の存在も大きい。
父のグラッツ(グリーム)・ダーハムはマスタリング・エンジニア、レコードのラッカー盤カッティング・エンジニアとして知られる人物。ジミー・クリフやボブ・マーリー、キャット・スティーヴンス、ロバート・パーマーといったアーティストの作品をリリースした〈Island Records〉に勤務し、1987年からはロンドンのマスタリング・スタジオ「The Exchange」でエンジニアを務めている。
一方、母であるイングリッド・ウェイスは後年カート・コバーンらからもリスペクトされることとなるフィーメール・ポスト・パンク・バンド、ザ・レインコーツのドラマーということで、3姉弟にとって幼い頃から音楽やミュージシャンは実に身近な存在だったのだ。
バンド名を冠したデビュー・アルバムは1940~50年代のブルース、ロカビリー、ロックンロールを基調としたもので、カバー8曲、オリジナルが2曲。カバーではキャンド・ヒート「Going Up The Country」やマディ・ウォーターズ「I Got My Mojo Walking」などを取り上げている。
マルチ・インストゥルメンタリストである3人が曲ごとに楽器を持ち替えて演奏しているこのアルバムは、父とルイスがエンジニアを務めてケンティッシュ・タウンの自宅スタジオで録音されたのだが、古いリボン・マイクや8トラックのテープレコーダーなどを用いたヴィンテージ感たっぷりのサウンドで、楽曲のムードをさらに引き立てる素晴らしい仕上がりとなった。
軸をぶらさず、音楽性を拡張してきた15年
デビュー作が大きな話題となったKD&Lだが、2011年のセカンド・アルバムではスカやカリプソの要素を取り入れ、さらなる進歩をみせる。スカ~レゲエのレジェンド、リコ・ロドリゲス(トロンボーン)とエディ “タンタン”・ソーントン(トランペット)のゲスト参加が、このアルバムのムードをより明確に表すこととなった。
こうした世代を超えた音楽的コラボレーションは、2015年のサード・アルバム『The Third』にも引き継がれ、こちらではザ・クラッシュのミック・ジョーンズがプロデューサーを務めた。重心の低い腰にくるグルーヴとホーン・セクションやハープを配したカラフルなサウンドをすっきりとまとめたポップなアルバムである本作は、メンバーのソングライティング力の向上を如実に感じられる良作となった。
ふたたびセルフ・プロデュースとなった2017年リリースの『Superscope』は、これまで通りブルース、ロックンロールなどを軸としながらも、ガレージロックやソウル、ファンクなどの要素を交えたサウンドで音楽性の幅を広げた作品。KD&Lのアルバムのなかでも最も踊れる要素の強い内容である。
このアルバムが現時点での最新スタジオ録音作ということになるのだが、冒頭に記した5年ぶりの来日公演とアルバム・デビュー15周年を記念して『Singles Collection』と銘打った日本独自企画盤が発売中だ。アルバム・タイトルが示すとおり、こちらは過去に7インチ・シングルとしてリリースされた楽曲を中心に編まれたもの。全17曲からなるこの編集盤は、KD&Lの15年の歩みを知るのにも最適な1枚といえるだろう。これまでデビュー・アルバムのリミテッド・エディション(SP盤5枚とCDからなるボックス・セット)でしか聴くことのできなかった「Ride」が収録されているのも嬉しいところ。ちなみにこの『Singles Collection』に封入の解説文はわたしが執筆しているので、よろしければ本稿と併せてお読みいただけたら幸いである。
KD&Lが参照する古きよき音楽におけるファッション
さて、ここまでKD&Lの音楽の軌跡をみてきたが、ファッションについても少し触れてゆこう。このバンドの音楽的下地が1940~50年代のブルースやリズム&ブルース、ロックンロールといった、いわゆるグッド・オールド・ミュージックであることは再三述べてきたが、それらの音楽におけるファッションを振り返ってみると、チャック・ベリーやリトル・リチャード、ボー・ディドリーといった初期ロックンロールを代表する黒人ミュージシャンはステージではタキシードやスーツなどのテーラードが目立っていたように思う。
それよりもやや下の世代になると、たとえばエルヴィス・プレスリーのようにフリンジをあしらったトップスやウエスタンブーツ、テンガロン・ハットなどのカントリー&ウエスタンからの影響を大いに感じさせるアイテムや、よりカジュアルな革ジャンやデニム・ジャケット、オープンカラー・シャツ、着丈の短いブルゾンを身につけていた。
白人ミュージシャンにとってはカントリー&ウエスタンのテイストはしっくりくるものであったろうし、そんな彼らの音楽はヒルビリー(アパラチア山脈周辺のマウンテン・ミュージック)の要素を黒人音楽であるところの初期ロックンロールと融合させたことでロカビリーと呼ばれるようになるのだった。
どこかコスプレめいた1980年代日本の’50sリバイバル
KD&Lは、これらのアウトフィットをまとったミュージシャンが奏でた音楽を下敷きにしているのであるが、こうした1950年代の音楽は、日本においては1970年代後半から1980年代にリバイバルが興り人気を博した。
当時はリーゼント(本家アメリカのロックンロールはダックテールと呼ばれるヘアスタイルだったのだが)、革ジャン、サングラスといった不良っぽさを演出するスタイルとともに提示されることが少なくなく、とりわけ男性のそれは「ツッパリ・ブーム」ともリンクするようなファッションと音楽で、ある意味コスプレ感が強かったのがこの頃の「フィフティーズ」だったのである(その点、女性のファッションの方はボーリングシャツ、サーキュラースカート、サドルシューズとカラフルで多彩だった記憶がある)。
アナクロやコスプレに陥らない音楽とファッション
1980年代の日本ではそんな印象だった1950年代の音楽をさらにあとの時代のイギリス・ロンドンから参照しているKD&Lのプレゼンテーションは、音楽、ファッションいずれの面においても実にクール。
デイジーとキティーは’50sのムードが感じられるアイテムと現代的なアイテムをミックスしたり、ステージでは当時のロックンローラーよろしくスパンコールやラメを用いたグリッターな服を着用したりといった具合で、ルイスは1930年代終わりから40年代にかけて流行したズート・スーツ風のいでたちもしばしば見受けられる。
ズート・スーツとは長い着丈のジャケット、ハイウエスト、たっぷりとしたわたりで裾がギュッと細くなるトラウザーズが特徴のスーツ。ジャズやジャンプの黒人ミュージシャンたちがアウトフィットとして取り入れ、またメキシコの伝統的な文化や慣習とアングロ・サクソン文化や白人優位主義との板挟みとなっていたメキシコ系アメリカ人の若者たちにも好んで着用されていた。そんなところから反抗や出自にとらわれない自由さを象徴するスーツでもあることは覚えておいていいかもしれない。
ともあれ、KD&Lの佇まいは音楽と乖離せず、それでいてスタイリッシュ。単なるアナクロではない、現代の音とファッションなのがこのバンドの大きな魅力なのである。