〈積みわら〉に心ときめく
展覧会ではその後、印象派の画家となったモネが“連作の画家”になっていく過程が丁寧に描かれている。
旅好きだったモネは、新たな画題を求めてヨーロッパ各地を巡った。フランス国内ではノルマンディー地方のヴァランジュヴィル、プールヴィル、ラ・マンヌポルト。モネは気に入った場所を見つけるとそこに数カ月滞在し、作品の制作に没頭。同じ風景でも季節や天候、時刻によって見え方は大きく異なる。その違いをカンヴァスに留めていった。
1883年にはパリ近郊のジヴェルニーに移住。モネは家の近くに、心ときめく風景を発見した。ジヴェルニーの秋の風物詩といえる〈積みわら〉だ。モネは毎日のように〈積みわら〉を描き、これが初めて意識的に手がけた最初の連作になったといわれている。
ロンドン滞在中の名品を公開
1899年から1901年にかけては、ロンドンに足繫く通った。宿泊したサヴォイ・ホテルの客室から見るチャリング・クロス橋とウォータールー橋の風景がよほど気に入ったのだろう。〈チャリング・クロス橋〉は34点、〈ウォータールー橋〉は41点を数える連作となった。
《ウォータールー橋、曇り》《ウォータールー橋、ロンドン、夕暮れ》《ウォータールー橋、ロンドン、日没》の3点が並んだコーナーは、本展最大の見どころのひとつ。モチーフである橋の細部や通行する車、橋の背後に建ち並ぶ工場などは簡素化され、橋のぼやっとした姿がカンヴァスに幻想的に浮かぶだけ。そんなカンヴァスの主役は “大気”。天候や時刻によって変化する光が、多彩な絵具で美しくも複雑に表現されている。色彩のハーモニーが心地よく、ただただぼんやりと眺め続けていたくなる。
最後にはモネの連作の代名詞といえる〈睡蓮〉も展示され、心地よい余韻とともに展覧会を見終えることができた。モネはやっぱりすごい。「第1回印象派展」の開催から来年で150年を迎えるが、モネの世界はまったく色褪せていない。