当時の外国人を描いた横浜浮世絵

 第3章は「幕末浮世絵の世界」。浮世絵の歴史は役者絵や美人画から始まり、やがて日本各地の名所絵や歌舞伎役者の姿絵など娯楽性の高いものが描かれるようになった。幕末には激動する時代性を受けて、表現がより刺激的に。歌川国芳やその弟子である歌川芳艶や芳員らによって、荒々しい武者絵が制作された。

「激動の時代 幕末明治の絵師たち」展示風景より。左から、五雲亭貞秀《生写異国人物 阿蘭陀婦人挙觴愛児童之図》 万延元年(1860) 五雲亭貞秀《横浜異人商館座敷之図》 文久元年(1861)ともにサントリー美術館 【展示期間:10/11~10/30】※現在は展示していません

 そうしたメインストリームの浮世絵も見ごたえがあるが、むしろ見る機会が少ない「横浜浮世絵」に興味を引かれた。開港した横浜につくられた港崎遊郭で踊りながら酒を酌み交わす外国人を描いた歌川芳員《横浜港崎廓岩亀楼異人遊興之図》、豪華なドレスを着たオランダ人女性を描写した五雲亭貞秀《生写異国人物 阿蘭陀婦人挙觴愛児童之図》。どちらも時代の様子を正確に記録したジャーナリスティックな作品だ。

 

小林清親の詩的な世界を堪能

 第4章「激動期の絵師」は、最終章ならではのクライマックス感ある内容。近代歴史画の祖・菊池容斎、血みどろ絵で名高い月岡芳年、あらゆる画題に挑み画鬼と称された河鍋暁斎ら、人気絵師をピックアップ。江戸絵画の伝統を引き継ぎながら、新時代の感覚を融合させた作品を紹介している。

 人気絵師の作品が並ぶ中でも、特に本展にふさわしいと感じたのが小林清親。清親は江戸幕府に仕えていた幕臣で、鳥羽伏見の戦いにも参戦。幕府崩壊後は明治時代となった東京で絵師として活動するようになった。

「激動の時代 幕末明治の絵師たち」展示風景より。右から、小林清親《隅田川夜》明治14年(1881)、小林清親《堀切花菖蒲》明治12年(1879)ともにサントリー美術館【展示期間:10/11~11/6】※現在は展示していません

 小林清親はまさに江戸から明治にかけての「激動の時代」を生き抜いた絵師。画風も文明開化を告げるような新しさに満ちている。隅田川沿いを歩く男女の姿がシルエットで表された《隅田川夜》。江戸から東京へと移り変わった都市の景観を、柔らかな眼差しで情緒豊かに切り取っている。

 激しくも優しい。激動の時代の名品からパワーを受け取ってみたい。