《カピトリーノのヴィーナス》が日本初公開
そんなカピトリーノ美術館のコレクションから約70点が来日した展覧会。「絶対に見逃せないこの一点」を挙げるなら、やはり《カピトリーノのヴィーナス》だろう。
ポスターやチラシに“奇跡の初来日”とうたわれているが、大袈裟にあおったものではない。ルーヴル美術館所蔵の《ミロのヴィーナス》、ウフィッツィ美術館所蔵の《メディチのヴィーナス》とともに古代ヴィーナス像の傑作として知られる名品。まさか日本の地で目にすることができるとは思ってもみなかった。どうして貸し出してくれたのかと不思議にさえ思う。
『カピトリーノのヴィーナス』は、前4~前3世紀頃につくられた古代の彫刻をベースに2世紀中頃に制作されたと考えられている。入浴後の女神が右手で胸を覆い、左手で股間を隠す。「Venus Pudica(恥じらいのヴィーナス)」と呼ばれる古代ローマ彫刻の典型的なポーズで制作されている。
展覧会会場ではヴィーナスの周りにスペースが広くとられ、ぐるりと一周、様々な角度から鑑賞できるようになっている。どこから眺めても、完璧なプロポーション。左足に重心が置かれ、右膝が軽く曲がり、右足は力を逃がすように外側に開いているが、ポージングのバランスがよく、動きがなめらかでリアル。リボンで束ねた髪の毛や傍らに置かれたルトロフォロス(水入れ)を覆う布の表現も美しい。
これだけ美しいヴィーナス像を、時の権力者が見逃すはずはない。1750年に教皇ベネディクトゥス14世が購入し、2年後にカピトリーノ美術館へ寄贈されたが、1797年にナポレオン率いるフランス軍に接収されてしまった。《カピトリーノのヴィーナス》はルーヴル美術館のコレクションとなり、ナポレオンは手元にヴィーナス像を置いておきたいと願いレプリカの制作を依頼したという。
その後、ナポレオンは失脚。《カピトリーノのヴィーナス》は1816年にローマへ返還された。
ローマ建国を伝える一風変わった彫刻も
ほかにもローマの栄光の歴史を垣間見られる彫刻作品は多い。展覧会の冒頭に展示された《カピトリーノの牝狼(複製)》は、ローマ建国の物語を今に伝えるもの。軍神マルスと巫女レア・シルウィアの間に生まれた双子ロムルスとレムス。彼らは川に捨てられてしまったが、一匹の牝狼に乳を与えられ、命を救われたという。ロムルスはやがてローマを建国した。
《コンスタンティンヌス帝の巨像の頭部(複製)》は、古代ローマ帝国を代表する皇帝をモデルにした巨像。約1.8mもある巨大な頭部から、古代ローマの栄華が感じられる。
今回の展覧会では彫刻に目が行ってしまうが、絵画もクオリティは高い。ドメニコ・ティントレットやピエトロ・ダ・コルトーナ、トスカーナの画家が描いた《ミケランジェロ・ブオナローティの肖像画》などが出品されている。
永遠の都、ローマ。2000年の美をめぐる時間を堪能したい。