静嘉堂文庫のコレクションから、武士の刀装具や印籠・根付の名品を厳選して紹介。サムライや江戸時代を生きた人々の“おしゃれ”に注目する特別展「サムライのおしゃれ 印籠・刀装具・風俗画」が、静嘉堂文庫美術館“静嘉堂@丸の内”で開幕した。

文=川岸 徹 写真=JBpress autograph編集部

重要文化財《四条河原遊楽図屏風》江戸時代(17世紀)

サムライだって、おしゃれを楽しみたい

 長く続いた戦乱の世が終わり、徳川幕府の統治のもとで太平の世を迎えた江戸時代。町には衣料品店や化粧品店が次々に開業し、女性たちはおしゃれや美容を思い思いに楽しんだ。一方、戦う機会を失い、時間と心に余裕ができたサムライたちも同様。ファッションへの関心を高め、おしゃれアイテムを身につけるようになった。

 では、江戸時代のおしゃれアイテムとはどのようなモノだったのか。静嘉堂@丸の内で開幕した「サムライのおしゃれ 印籠・刀装具・風俗画」展で、その疑問を解いてみよう。

 まずは、武士のシンボルといえる刀装具。戦国の世を終えて平和な江戸時代になっても、サムライは士農工商の身分制度の中で大小の刀を腰にさすことを許された。武士たちは相棒ともいえる刀に自身のおしゃれ心を注ぎ込んだ。

 江戸時代の刀装具の特徴は「黒」。戦国の世では朱塗や金色のきらびやかな鞘が主流だったが、平和な時代になるとすたれ、かわりに黒が流行色となった。サムライたちは深い光沢をもつ漆黒の艶に憧れ、鞘に黒漆塗を施した。黒漆塗の技術は大きく進化・発展し、海外からも注目を集めるように。西洋で生まれたピアノの黒塗は日本刀の鞘に触発されたといわれている。

 とはいえ、黒一色では物足りない。そこでサムライは、黒塗に「金」をアレンジすることで、おしゃれ感を演出した。展覧会に出品されている《藤丸写合口拵(長船兼光脇差付属)》は、江戸時代に好まれ、たびたび写しが制作された人気の短刀。黒塗の刻み鞘に金銀の蒔絵を施し、藤の花を表現している。江戸城をはじめ殿中の勤務では大刀は預けなければならなかったが、小刀は携帯が許されていた。こんな上品で美しい小刀を身につけていれば、城内で羨望の目を集めたに違いない。

 さらに江戸時代は、拳を守る鐔(つば)、ペーパーナイフのような小柄(こづか)など、細かな金工も盛んに。彫刻や象嵌、薄い金の板を張り付ける色絵など様々な装飾技法が発展し、多くの名品を生み出した。《花鳥図大小鐔・三所物》は、江戸金工を代表する一派「石黒派」の石黒是美によるもの。江戸時代に中国から輸入された高価な珍鳥“錦鶏”が、金、銀、赤銅、緋色銅を用いて、精緻に表されている。