ポルシェの解

 このうち、今回はスタンダードなGT3に試乗した。

 ドアを開けてコクピットに乗り込む。シートの位置は低く、しかも深いサイドサポートが与えられているため、まるでレーシングカーに乗っているような感覚が味わえる(試乗車はオプションのフルバケットシートを装備。価格は89万1000円)。キャビン後方がロールケージ(パイプで組んだボディ補強材)で埋め尽くされているのは、試乗車がオプション価格0円のクラブスポーツパッケージを装備しているためだ。

 エンジンをかける。すると、なにかが弾けるかのような、迫力あるサウンドがキャビンを満たす。これだけでもドライバーの鼓動がいきなり速くなりそうなくらい、刺激性は強いのだが、よくよく聞いてみれば、アイドリングは訓練の行き届いた兵隊が整列したときのようにきれいに整っていて、回転数が上下するようなことは一切ない。しかも、超精密な機械が動作していることを思わせるエンジン音は抜けがいい快音。迫力があって刺激性は強いけれど、それと同時に圧倒的な精度感を感じさせる洗練さがある。

 走り始めてみると、タイヤが跳ね上げた小石が金属製のボディに当たって「パチン、パチン」という音を発する。同様の音はレーシングカーでも聞こえるもので、これもドライバーに対する刺激材料のひとつだ。

 乗り心地は、硬い。でも、ボディがガタガタと揺れたり、路面からゴツゴツという強い衝撃が加わったりすることもないので、不快には感じにくい。刺激をうまくあたえながら、洗練さも両立させた乗り心地だ。

 この足回りこそ、最新911GT3の特色をすべて表しているといえる。第一印象は刺激的なのに、よくよく観察してみれば快適性も十分に確保されている。しなやかな足回りは荒れた路面やコーナリング中も路面を捉えて離さず、常に安定したグリップとハンドリングをドライバーにもたらす。おかげで安心感は強く、安全性も高い。まさに「刺激性が強いのに洗練された足回り」といえるものだ。

 エンジンも極めて洗練されていて、レッドゾーンが始まる9000rpm(!)までスムーズに回るほか、回転数を上げていくと、これにあわせてパワーも一直線に高まっていくタイプ。そのいっぽうで、エンジン音は回転数が1000rpm上がるたびに音程と音量を高めていき、ドライバーの聴覚を強烈に刺激する。その様子は、まるでロックのギターソロがクライマックスに向かうにしたがい、音程と音量を次第に高めていくのと極めてよく似ている。

 つまり、911GT3は主に聴覚でドライバーに刺激を与えるいっぽうで、エンジンやシャシーは極めて洗練されていて安心感が強い。こうしたスポーツカーを作ろうとする意思、そしてそれを実現する技術力の高さは、相変わらずポルシェが世界最高峰のスポーツカーメーカーであることを証明しているといえるだろう。