現代アートを8つの科目で紹介

「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」は、学校で習う教科を現代アートの入口とし、見たことのない、知らなかった世界に多様な観点から出会う試み。国語、社会、哲学、算数、理科、音楽、体育、総合の8つのセクションに分かれているが、作品の多くは「算数と理科と哲学の要素を組み合わせたもの」というように複数の科目や領域にまたがっている。自分の直観や感性を大切に、自由な気持ちで鑑賞して構わない。

[国語]ワン・チンソン(王慶松)《フォロー・ミー》 2003年 所蔵:森美術館(東京)

「国語」のセクションでは、言葉や言語をテーマにした作品を紹介。冒頭に展示されたジョセフ・コスース《1つと3つのシャベル》は、実物のシャベルとともに、撮影されたシャベルの写真と辞書に書かれたシャベルの定義文を並べた作品。もし、何の説明もなくシャベルの実物だけを見た場合、私たちはシャベルの機能や目的を理解することができるだろうか。「シャベルとは何か?」を考えさせられる知的なアプローチをもったコンセプチュアル・アートだ。

 スーザン・ヒラー《ロスト・アンド・ファウンド》も印象的な作品。ヒラーは世界の言語のなかから現在は消滅した、あるいは消滅の危機に瀕した言語の音声記録を入手し、その音声とオシロスコープによる波型映像を組み合わせて作品とした。英語と日本語の字幕が付いてはいるものの、各言語の細かなニュアンスはまったくわからない。その言語が形成した文化や世界観の消滅を間近で見ているようで、なんだか寂しい気分になった。

[社会]イー・イラン《 TIKAR/MEJA(マット/テーブル)》2022年

「社会」セクションでは、“歴史の正史”からこぼれ落ちてしまうようなマイノリティの物語を拾い上げた作品に出会える。マレーシア出身の作家イー・イランによる《 TIKAR/MEJA(マット/テーブル)》は、マレーシアの伝統的な織物にテーブルの図案を織り込んだカラフルな作品。ヨーロッパによる入植前には、マレーシアにはテーブルを用いる文化がなかった。この作品は、人々の生活から支配がはじまり搾取に至る植民地支配の流れを表しているという。

 3科目めのセクション「哲学」には、LEDデジタルカウンターに表示された数字の明滅が仏教的な死生観を表す宮島達男《Innumerable Life/Buddha CCIƆƆ-01》、慈愛に満ちた表情で静かに祈りを捧げているかのような少女を描いた奈良美智《Miss Moonlight》など、人気アーティストの作品が並ぶ。各作家が世界をどのように観察し、どんなふうに捉え、どう表現しているかを感じてみたい。

[算数]杉本博司《観念の形 0010 負の定曲率回転面》2004年 Courtesy: ギャラリー小柳(東京)

 次の「算数」のセクションでは、数学的な法則をクリエイティブなアート領域に昇華させた作品を鑑賞できる。フィボナッチ数列をネオン管で表したマリオ・メルツ《加速・夢・まぼろし》、数式によって定義される曲面を三次元で可視化した幾何学模型を撮影した杉本博司「観念の形」シリーズなどを紹介している。