1人で競技するときと2人で競技するときの違い
アスリート同士ならではのやりとりもあった。
水谷氏は現役時代を振り返りつつ、語る。
「スポーツって勝者が一人しかいないんですよね。優勝以外はみんな敗者になってしまうので。でも僕たちって一人になるために一生懸命頑張るじゃないですか。そうなったときに、守る側より攻める側が絶対に強いんですね。何かを得るためにはリスクをもってやるということがすごく大事なことなので」
三浦と木原は、「自分たちは追われる側ではなく追う立場」という趣旨を会の中で繰り返した。それと重なる話でもあった。
三浦は演技中に失敗すると引きずってしまうと言う。水谷氏は答えた。
「チャンスが来たときにミスしてしまったときもやっぱりいっぱいあるんですけれども、でもそれも一つの経験として、必ずその先の自分の競技人生にいきてくると思うんですよね。失敗を失敗として捉えるより、次の成功のための間違いだと思って受け入れることがすごく大事で、失敗したとしても別に死ぬわけじゃないですからね」
3人に対して、1人で競技するときと2人で競技するときの違い、2人であることが力になった経験についての質問に、それぞれこう答える。水谷氏は言う。
「やはり、シングルスのときというのはほんとうにすべて自分でやらなきゃいけない。自分の責任でもあるし、結果を残せば自分が評価されるんですけども不安もものすごく大きくてですね。僕はシングルスよりもダブルスの方が好きなのかな、というのはありますね。やはり東京オリンピックで伊藤選手を組んでとにかく頼りになったなと。自分が緊張している中でも、隣に伊藤選手がいてくれたからこそ自分のベースのパフォーマンスができたと思いますし、苦しい劣勢の状況でも隣にパートナーがいてくれると思うだけでふだん以上の力が出せたと思うので、個人的にはシングルスよりもダブルスの方が精神的に安定して臨めた気がします」
三浦はこう語った。
「ペアに転向してからもう8年くらいになるんですけど、相手がいるから私もメンタル的に安定して試合に挑めるのがあるので、シングルでどうやってメンタルを保っていたかというのをほんとうに思い出せなくて、それくらい相手の存在にすごく感謝しています」
そして木原。
「シングルをやっていたのは10年以上前なので少し感覚を忘れてしまったんですけど、やっぱりシングルのときは少し無責任なところがあったかな、と。ペアに転向してからは、相手がいることですし、絶対に怪我をさせたくないという思いで常にやってきたので、そういった気持ちの変化はペアになってから大きかったのかなと思いますし、リンクに入った瞬間、お客さんの中に2人でいるのは心強いと思います」
終始穏やかで和やかな時間の中で、リズムを感じさせるようなのやりとりがあり、何よりも2人は笑顔だった。2人である強みを3人は語った。2人であることを強みとできるのも、2人の信頼あればこそであることを話の内容や間合いがあらためて物語っていた。
シーズンを通して、ショートプログラム、フリーをそろえる=どちらも完璧であった試合がなかったことを悔しいという2人は、それと合わせ、「もっと上手なペアがいるので」、挑戦者として新たなシーズンへ臨むという。
そしてこうも語る。
「全日本選手権のペアでは表彰台が埋まらないことが多いので、表彰台を埋めるようにしたいという思いからそう答えたと思います」(三浦)
「日本はシングルのスケーターの素晴しい方がたくさんいて、フィギュアスケート文化が根付いていると思うんですけれども、ペアは今まで選手が少なかったので、そういった文化が少ないのでいつか璃来ちゃんが言ったように埋めたいという思いがあるのでそう答えたのかなと思います」(木原)
世界選手権後、「この結果を見て子どもたちがペアをやりたいと思ってくれたら」と話した言葉の思いを尋ねられての答えだった。
挑戦者であろうとする2人の歩みは、自然と日本のペアの状況を変えていく挑戦でもある。
輝かしいシーズンを終えて、さらなる高みを目指す2人は、この2人ならではの強みとともに新たなシーズンに進もうとしている。