レイモン・ラディゲ原作の「肉体の悪魔」(1947)で脚光を浴び、文豪スタンダールの作品を映画化した「パルムの僧院」(1948)、「赤と黒」(1954)でも知られるが、国際的なスターとなったのは世界中で大ヒットした冒険活劇「花咲ける騎士道」(クリスチャン・ジャック監督、1952)だ。役柄「ファンファン」で“イケメン俳優”としての評価を確立したが、実はカンヌ映画祭監督賞、ベルリン映画祭で銀熊賞を獲得した名作でもある。ルイ15世の時代の七年戦争を背景に、先ごろ亡くなった女優、ジーナ・ロロブリジーダと共演。漫画チックながらフランスのエスプリを効かせ、テンポ良く進む物語は、脚本と監督、名優たちが見事に噛み合った証拠だろう。
評伝『ジェラール・フィリップ 最後の冬』をベースにした同名のドキュメンタリー映画は2022年5月、仏カンヌ映画祭で企画され、GP生誕100年記念イベントで公開された。評伝と映画の双方で印象に残るのは、GPが自宅で誰にも看取られず眠るように息を引き取っていたくだりである。末期ガンと分かってから2週間あまりでの死去だった。
本人には病名は伏せられ、病床で読んでいた戯曲には「20年後の僕に」といった、演じたい役柄に対するメモが残っていた。映画のパトリック・ジュディ監督は「おそらく病名に気づいていたと思うが、彼にはそれをおくびにも出さないエレガンスがあった。リストを書くことは、彼にとって希望でもあったのではないか」と日本経済新聞のインタビューに答えている。
映画では別荘を持つ南仏ラマチュエルの墓地での埋葬シーンが登場、妻アンヌが呆然と見守る様子があり、彼女の整理できない気持ちが迫ってくる。日本版は、情報量の多さから字幕ではなく、俳優の本木雅弘さんがナレーションを担当した。
日本映画を高く評価しフランスで紹介
2022年11月から全国巡回中の「生誕100年映画祭」では、このドキュメンタリーに加え、複数の旧作が上映されている。日本における映画祭は1990年代以降、生誕80周年、90周年の節目など何度か企画されてきた。フランス以外でこれだけ盛り上がっているのはおそらく日本だけである。