『ロミオとジュリエット』再現への挑戦

 ひととおり振り返った後、藤原は語った。

「進化と未来をコンセプトにした以上、この番組自体も絶対進化しなきゃいけないなと思ったので、1つ挑戦しました」

 それは『ロミオとジュリエット』の再現にあった。

「第1弾でも再現しようとしていました。ニースの『ロミジュリ』は音と音とのつなぎが重なりまくっているというか、そういうところですごく難しくて断念して、第1弾では泣く泣くステップの部分から1曲流す形をとりました。でも伝説のプログラムでどうしても最初から最後まで再現したい気持ちは捨てきれなかったので、今回、工夫に工夫を重ねて、全く同じにはもちろんできなかったんですけれど、できる範囲で再現しました。

 この『ロミオとジュリエット』は主に4曲使っていて、3曲をメインで使って、曲と曲の間のつなぎとして1曲使われているという構成になっているものでした。聴きこんでやっと気づいたんですけれど、中間で使われていた「I'm Kissing You」という曲は、まず最初の数分の音を使って、そのあとにラスト数分の音を持ってきて、中間部分のメロディーを後ろに回してというちょっと複雑な構成になっていて。ピアノの音色だけの部分のパートだったんです。

 歌詞がついていたら歌詞が1つの目安にできるんですけど、ピアノだけでどの音を羽生選手がどの順で使っていたかを把握するのがほんとに難しくて、一瞬でも気を抜いたら分からなくなってしまう。羽生選手が滑っている映像と、実際に私たちが使う予定の音源と一緒に流したんですけれど、何かが違うんですよ。途中からぴったりリンクしなくなっちゃうというか、何が違うんだろう、と探偵のように一緒に作った清水遥夏ディレクターと分析して。そういう作業を経て出来上がりました。

 ソチの『ロミオとジュリエット』も同じく挑戦したプログラムです。前回、ほんとうは流したかったんですけれど、羽生選手が滑っているバージョンの音源がどこを探しても見つからなくて、それであきらめてしまっていました。今回はあきらめず、いろいろなCD屋さんを巡って、電話をかけて、ネットでも調べて、音源を探しに探してようやくたどり着くことができて流すことができました。私たちも少しは挑戦できたかな、と思っています」

 こうして番組は作られ、成功をおさめた。

 その根本には、藤原が羽生にも感化を受けて学んだ姿勢があった。(続く)

 

藤原菜々花(ふじわら ななか)
ラジオNIKKEIアナウンサー。2020年入社。中央競馬実況担当を目指し同番組に携わる。2022年5月に放送された『こだわりセットリスト特別編・羽生結弦選手特集』においては企画の立ち上げから取り組み、海外からも含め大きな反響を呼んだ。9月には第2弾を放送。この他『ななかもしか発見伝』『日経電子版NEWS』等も担当。