キュビスム以降のピカソも見逃せない

「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」展示風景。《緑色のマニキュアをつけたドラ・マール》などキュビズム以降の作品が並ぶ

 色彩的な違いはあっても、「青の時代」「バラ色の時代」を通じて人間の姿や生活を写実的に描いていたピカソ。だが、その写実性が1906年頃からの「キュビスムの時代」で崩壊する。キュビスムとは、ひと言でいえば、3次元的な表現の破壊。たとえば、「1つの物体は見る角度によって、違った形に見える。そのいろいろな形を1つの作品に同時に描き込んだらどうなるか」。そんなことを考えながら、多様な実験やチャレンジを行ったのがキュビスムの画家たちである。

 展覧会では、キュビスムへ挑む多彩なピカソ作品に出会える。セザンヌに感化されて描いたキュビスム的静物画《洋梨とリンゴのある果物鉢》(1908年)、ジョルジュ・ブラックの影響がうかがえるキュビスム的風景画《丘の上の集落(オルタ・デ・エブロ)》(1909年)など。「キュビスムの時代」の作品は難解で敬遠されやすくもあるが、各作品に付けられた解説や音声ガイドを見聞きしながら鑑賞すると、ピカソの頭の中が覗けるようで親しみが湧いてくる。

 ピカソは「キュビスムの時代」の後も画風を次々に変え続けた。アカデミックな作風を模索した「新古典主義の時代」、ダリ風の形而上絵画に関心を寄せた「シュルレアリスムの時代」。1973年、91歳で亡くなるまで、ピカソは新たなテーマを求めながら精力的に創作活動に励んだ。

 そんなピカソは画風と同様に、めまぐるしく恋人を変えた人物としても有名だ。初めての恋人フェルナンド・オリヴィエ、“エヴァ”の愛称で知られるマルセル・アンベール、バレーダンサーのオルガ・コクローワ、30歳以上年下のマリー=テレーズ・ワルテル、写真家のドラ・マール、40歳年下のフランソワーズ・ジロー……。

 出品作には恋人をモデルにした作品が多く含まれており、なかでもドラ・マールをモデルにした2作品は強いインパクトをもつ。《緑色のマニキュアをつけたドラ・マール》(1936年)、《黄色のセーター》(1939年)ともに、巧みなデフォルメによってドラ・マールのミステリアスな魅力が際立っている。

「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」展示風景。パウル・クレー作品も充実

 ピカソ作品について紹介したが、バウハウス時代を中心にしたパウル・クレーの絵画、マティス晩年の切り紙絵、ジャコメッティの彫刻も見ごたえが高い。特にクレー作品34点は、「これだけで独立した展覧会が開けるのでは」と思えるほどの逸品揃い。「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」は、期待値をはるかに上回る展覧会だ。