文=酒井政人

2022年6月12日、日本選手権、女子5000m決勝での田中希実 写真=西村尚己/アフロスポーツ

800m、1500m、5000mの3種目に出場

 東京五輪の女子15000mで8位入賞の快挙を果たした田中希実(豊田自動織機)が、今夏はオレゴン世界陸上で800m、1500m、5000mの3種目にチャレンジする。

 6月中旬の日本選手権は2年連続で3種目に参戦した。4日間で1500m予選・決勝、800m予選・決勝、5000m決勝と合計5本のレースを走っている。決勝を振り返ると、1500mは4分11秒83で3連覇。800mは2分04秒51の2位に終わったが、約75分後の5000mで快走する。

 残り1周で田中が強烈なスパートを披露。ラスト1周を61秒台で駆け上がり、15分05秒61で初優勝。5000m日本記録保持者で東京五輪9位の廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)に5秒以上の差をつけて、中長距離2冠に輝いた。

 日本人選手で過去に5000mのラスト1周をこれだけのタイムで走った選手は記憶にない。しかも、超過密スケジュールだったことを考慮すると、異次元の爆発力だ。

「今日の5000mは自分のなかでも今季一番じゃないかなと思います。案外余裕を持てたので、(75分前に)800mを走っても走っていなくても、自分の場合は同じだったのかなという気はします。前半はゆとりを持ちながら良いイメージでレースができました」

 

昨年は「3種目出ることをすごく恐れていた」

 昨年の日本選手権は、「3種目出ることをすごく恐れていた」が、今年は「すでに経験したことなので抵抗がなかった」という。未知への挑戦が田中を強くしてきた。

「今回は3種目に向き合ったことで、自分に負荷をかけて、火事場の馬鹿力を出すことができた。私は自分だけが苦しいと思い込んでしまうタイプなんですけど、自分が今まで葛藤してきたものに少しは勝てたんじゃないかなと思います。去年を上回るような3種目にできて、去年以上の力があるのを確認できて良かったです」

 田中は日本選手権で1500mと5000mのオレゴン世界陸上代表が即内定したが、その後もレースに出続けた。6月22日のホクレン・ディスタンスチャレンジ士別大会は1000mで2分37秒33の日本新記録をマークすると、その後の1500mではペースメーカーを務めた。

2022年6月22日、 ホクレンディスタンス20周年記念大会、女子1000mで田中が日本新 写真=西本武司/アフロ

 7月2日の同士別大会は1500mで4分07秒79の2位。7月6日の同深川大会は3000mで自身が持つ日本記録(8分40秒84)に及ばなかったが、終盤独走しての8分42秒66で優勝した。

 そして7月7日の追加発表で800mでもオレゴン世界陸上の出場権をつかんだ。日本選手権を終えた時点では、「スケジュールを考えると、1500mと5000mで出場する可能性が高いかなと思っています。東京五輪は5000mで決勝に残ることができなかったので、今年は両種目で決勝に進出して、しっかり戦いたい」と目標を語っていたが、本番に向けた最終レース後に〝3種目チャレンジ〟を表明した。

 7月9日の兵庫県選手権は1500mにオープン参加して、4分10秒88をマーク。その後の取材では、「ほぼ毎日レースがある方が、自分の場合は前向きな気持ちで臨むことができる。3種目で納得のいく結果を出すのが目標です」と言い切ったのだ。この日のうちに成田空港に向けて移動すると、翌10日に米国へ旅立った。