日本ワインの頂点「サントリーワインインターナショナル」が大きく動く。新ブランド『SUNTORY FROM FARM』は日本ワイン界に変革をもたらすか? 2022年の戦略説明会を読む。
オタク文化からの脱却なるか
情熱的な造り手と熱烈なファンに支えられ、驚異的といっていいほどにその品質を向上させ、品種、醸造の多様性を獲得している日本ワイン。しかし、それは日本で飲まれる酒全体のなかでわずかに4%程度のワインのなかのさらに5%程度に過ぎない。また、少なくともワイン好きの間で「日本ワイン」がブランドとして定着しつつある一方で、一種のガラパゴス化(日本化?)が起きている点は留意して損はないことだろう。
すでにワインの消費地としては世界的に大きな存在感があり、また食文化でも注目を集める日本が、ワインの産地としての存在感を獲得してゆきたいのであれば、日本のワイン文化を知り、世界のワインに通じ、かつビジネスにも長けた企業が牽引役となるのは、必須の条件と言ってしまっていいはず。
そういう意味で、歴史的に言えば『赤玉ポートワイン』からその物語がスタートし、日本の醸造向けブドウの父、川上善兵衛を支え、「日本ワイン」というカテゴリーの礎を築き、またワインの輸入商としても造り手としても、規模でも評価でも業界をリードする企業「サントリーワインインターナショナル」への期待は大きい。
そしていよいよ、この巨人が日本ワインのために次の一歩を踏み出す。今回の「サントリーワインインターナショナル2022年日本ワイン戦略説明会」では、それが説明された。
SUNTORY FROM FARMという新ブランド
まず、注目すべきは新ブランド「SUNTORY FROM FARM」を立ち上げること。これまでサントリーが展開していた日本ワインのシリーズ「登美の丘ワイナリー」「塩尻ワイナリー」「ジャパンプレミアム」が「SUNTORY FROM FARM」ブランドのもとに統合される。これによって、知らないと分かりづらかったサントリーの日本ワインの商品ラインナップが、非常にスッキリと見通しがよいイメージになった。
従来、ジャパンプレミアムの産地シリーズに属していた、青森県 津軽、山形県 かみのやま、長野県 高山村をブドウの産地とする各種ワインは「テロワールシリーズ」、産地等を語らず、甲州、マスカット・ベーリーAと品種で区切って販売されていたワインは「品種シリーズ」、登美の丘ワイナリー、塩尻ワイナリーシリーズのワインは「ワイナリーシリーズ」、そしてサントリーの日本ワインにおけるトップキュヴェ『登美』(赤・白)、『岩垂原』(メルロ・メルロ キュベスペシャル)は「シンボルシリーズ」と分類されながら、いずれもが「SUNTORY FROM FARM」ブランドとなる。
ドメーヌ バロン ド ロートシルト社とのコラボレーション『デュオダミ』のようなワインが、どう分類されるのかは、現状発表されていない。
SUNTORY FROM FARMブランドのワインは2022年9月6日(火)に全国発売となる。
登美の丘ワイナリーのリニューアル
サントリーの日本ワインの中核となっている山梨県 甲斐市のワイナリー「サントリー登美の丘ワイナリー」は9月9日(金)にリニューアルオープンする。ワイナリーを訪れての体験をより豊かなものにするべく、およそ5億円の投資がなされる。オープンに先駆け、特別な体験チケットを、クラウドファンディングにて先行発売するという。
注目すべきは、この5億円とは別に、塩尻ワイナリーもふくめ、約10億円がワイナリーの設備へと投資されることだ。これらは、圧搾機、タンク、熟成庫へと向けられた投資であることから、より高精度で多様な醸造と熟成が期待される。
現状でもすでに、サントリーの日本ワインは日本ワイン界トップの品質である。ここから、さらに日本ワインに投資する、というのは、まだ現在のワインに満足してはいない、というサントリーの自身への評価の表明だろう。今後どこまで日本ワインのポテンシャルを引き出すのか。ボルドーで「シャトー・ラグランジュ」を復活させた実績があるサントリーだけに、期待は大きい。
甲州の大幅な強化
ワインの価値の半分以上はブドウで決まる。どんなに優れた造り手でも、安定して高品質なブドウが入手できなければ、偉大なワインは生み出せない。
サントリーは山梨での遊休農地を含めた新たな土地の開発を継続する。2030年には、その開発面積は20ヘクタールに達する見込みだという。栽培品種は甲州を中核とし、こうして増える面積に起因する分も含め、自社畑、自社管理畑のブドウ樹の成長等が落ち着けば、収穫量は一気に増える。2021年に35トンだった甲州の収穫量は、2030年には、297トンにまで達する見込みだ。
登美の丘ワイナリーは現状でも山梨県最大の甲州の栽培面積を誇る。これが、この計画通りにいった場合、2030年には山梨県の甲州ブドウ生産量の約10%がサントリー管理下のブドウになる。
この大幅に増えるブドウの受け皿に、先述の、より細かな管理が可能なワイナリーがなるものとおもわれる。こうなってくると、同じ山梨の甲州ブドウといっても、区画や栽培方法、ヴィンテージごとの差異がより明確化するのは必定だろう。日本ワインはまだ、テロワールが十分に研究されているとは言えない。ブランド名を「FROM FARM」としたことと合わせて考えれば、サントリーはこういう「日本ワインがまだやれてないこと」を、畑の段階から、やるつもりなのだろう。
日本ワインを次なる次元へと飛躍させるのは、サントリーとなるのか? ライバル各社も黙ってはおらず、切磋琢磨によって日本のワインがさらに色鮮やかなものとなれば、楽しい未来がやってくるぞ!