ソムリエはエンターテイナーである
wine@ EBISUに到着して早々に「さあ、まずワインカルテを造ってみてください。スズキさんなら『上級モード』でいいですね」と促されるままに、自分のスマートフォンでスタートすることになった『パーソナライズワイン診断 』なるサービスの体験で、「いやいや上級なんて……」と口ではいいながらも「おいおい、これでも俺はギョーカイ人。シロートさんとは体験の数から違うんだ。俺の好きなあのワインとこのワインは全然違う。こんな診断で好みなんて分かるものか」と、心のなかでは強がっていた筆者は、診断中盤ですっかり心を捕まれ、診断結果が出ると、それを見ながら、無邪気に笑っていた。
「ああ、そうそう、こういうワイン、好きなんだ……」
ワインって楽しい。そうおもえた。これは、この手の類似サービスとは、完成度も違うけれど、なにより目的が違うと感じられる。ワインのウンチクを言いたいわけでも、ワインの勉強をさせたいわけでもない。まずなにより、ワインが人生の楽しみだということ、エンターテインメントだということを、伝えたいに違いないとおもえた。
一流のプロが、wine@の背後にいるのは、このためか……。
ソムリエ、などと聞くと、難しいことを言ってきて、僕らが不明を恥じる気持ちにさせてくる怖い存在、などとおもってはいないだろうか? 筆者はワインギョーカイに関わり始めたときに、そうおもっていた。ところが実際に付き合ってみると、そんなことはあんまりなかった。
とりわけ、一流と称される人たちは、一流のエンターテイナーだった。手取り足取り、楽しく、筆者をワインファンへと育ててくれた。彼らもまたワイン好き。自分が好きなものを好きになってくれそうな人がいたら、ワインって面白いよ、と伝えたい人たちなのだ。ワイン診断は、そういうソムリエみたいに感じられた。
取材時はまだ、ローンチ前のテスト版だったけれど、いまはここ(https://karte.wine-at.
診断結果は⽩ワイン13タイプ、⾚ワイン13タイプ、ロゼ4タイプ、スパークリング8タイプに分かれる。
そして独特なのは、このwine@ EBISU(とwine@のオンラインショップ)では、世界中のワインが、この38パターンで分類されているところだ。産地とか品種とかではなく。現在は800種のワインがワイン診断と紐付いているという。
診断後、ワインセラーに行ってみると「あ、このワインはこのタイプね。あ、これも同じ分類? じゃあ、あれは?」となって、棚に並んだ飲んだことのあるワインを起点に、飲んだことのないワインを眺めるのもエンターテインメントに変わっていた。
と、ここまでは、多少ともワインギョーカイのことを知る筆者の感想だけれど、まだ、ワインに詳しくない人にとって、これはなにより楽だ。ここからは、このwine@の仕掛け人にして、先に言及したビジネスの成功者、丸岡栄之(まるおかえいし)さんの発言も交える。
「ワインをよく飲んでいるかたでも、自分でワインを選ばなくてはいけなくなったときに困る、ということは多くあります。このワイン診断をやっていただければ、大まかであっても、好みの方向性はわかります。まずは、それを頼りにワインを選んでいただけるだけでも、ハズレを引く、という可能性は大幅に下がります」
「そうやって、まずはワインを好きになっていって欲しい」と言う。ワイン好きが品種とか産地とか、造り手とかいったことを楽しむのは、そもそもワインが楽しいと感じているからだ。これから酒を飲もうというのに、まずはお勉強から、なんて、そんな面倒なことがあろうか。それは、このお利口なワイン診断プログラムに、任せてしまおう。それにこのお利口さんは、ユーザー一人ひとりのデータを学習するから、使えば使うほど賢くなる。自分専属のソムリエがスマートフォンのなかに常駐してくれる将来もありうる。
丸岡さんは、続けて、この発想に至るきっかけとなったであろう話をしてくれた。