絶妙だった原監督の采配
圧倒的な戦力があったとしても、箱根駅伝はカラーの異なる10区間で戦わないといけない。区間配置がハマらないと巨大戦力を生かすことができないが、今回の青学大は④原監督の絶妙な区間配置がしっかりと機能した。
筆者が最も驚かされたのは山に挑む5区の人選だ。5区で区間歴代2位のタイムを持っていた飯田貴之(4年)を4区にまわして、若林宏樹(1年)を5区に抜擢したのだ。若林は10000mで28分27秒72を持っているが、出雲4区で区間6位、全日本6区で区間12位と学生駅伝ではさほど活躍していなかった。しかし、「青学大で『山の神』にならないか」という言葉で口説き落とした期待のルーキーは区間賞争いを繰り広げる。4区飯田、5区若林が区間3位と好走したことで、青学大は独走態勢を築くことに成功した。
また当初は2区岸本大紀(3年)、3区近藤幸太郎(3年)、4区佐藤一世(2年)というオーダーを準備していたが、岸本と佐藤の状態が良くなかったことで区間配置を変更している。
「岸本と佐藤は夏合宿以降100%の練習メニューをこなすことができませんでした。直前においても佐藤は10日前に発熱しましたし、岸本は全日本後に故障で3週間はノーランニングの状態でした。往路は難しいと判断して、復路に起用したんです。彼らは駅伝力が高いので、スタートラインに立ったときは必ず走ってくれると思っていました」(原監督)
岸本は7区で区間賞、佐藤は8区で区間2位。花の2区に入った近藤は区間7位(日本人3位)でカバーすると、3区に抜擢されたルーキー太田は区間歴代3位で突っ走った。青学大の選手たちは原監督の狙い通りの快走を連発したことになる。
さらに高まった〝個々の意識〟
最後は⑤選手たちの「自律」だ。今季は〝個々の意識〟が格段に高まっている。連覇を目指した前回大会は主将・神林勇太が予定していた3区で区間14位に沈むと、5区も区間17位と大苦戦。往路で12位と大きく出遅れて、総合4位に終わった。
「昨年はエース神林の穴埋めができずにチームは崩れました。前回の反省を踏まえて、誰が使われても走れる選手層の厚さを作ることを強化策として取り組んできたんです。キャプテン飯田を中心に1人ひとりが強くなろうという思いでやってくれた。その成果が出ましたね。本当に素晴らしい。カッコ良かった」(原監督)
エースに頼るのではなく、「自分がやるんだ」というメンタルがチームに浸透。個々の強さがチームの圧倒的なパワーになった。
「学生たちは自ら律する『自律』ができるようになったんです。与えられたメニューをただやるだけでなく、自分に足りないもの何なのか。自分の目標とするものは何なのか。原がいるからやるんじゃなくて、1人ひとりが考えて行動するというシステムができた。それが今回のチームの強さなのかなと思っています」(原監督)
ビジネスマンの手法を箱根駅伝に持ち込んで結果を残した青学大。チームはまだまだ進化している。