文=松原孝臣 写真=積紫乃

フィギュアスケート選手のブレードや靴をトータルでメンテナンスする職人として活動する橋口清彦さん。長距離移動や車中泊も何のその、車で各地に出向いては車中でメンテナンスを行なうという、異例の形式を選んだのはなぜか。きっかけをくれた選手や研磨職人から見た競技の懸念点など、様々なお話を伺いました(全3回)。

車中で行なう「出張」メンテナンス 

 愛知県内のリンク近くの駐車場。

 中学生くらいだろうか、自転車でやってきたスケーターからスケート靴を受け取ると、靴を、ブレードを丁寧に確認する。今度出る試合のこと、会場となるリンクで滑った経験の有無を聞き、靴やブレードの状態を伝え、どうメンテナンスするかを相談する。

 また人がやってきた。今度は小学生だろうか。受け取ると、止めていた車の中で機械を作動させ、ブレードの氷と接する部分、「エッジ」を磨ぎ始めた。

 研磨機を置くショップは少ないながらもある。でも、車の中での作業を目にするのは初めてだった。

 橋口清彦は、車で各地に出向いてはブレードや靴をトータルでメンテナンスする職人として活動する。

 この日は月曜日。

「金曜日に新潟の柏崎、土曜日が新潟市、日曜日が富山に行ってメンテナンスをしてきました。今朝の午前2時に帰ってきて、朝6時に起きたあと中京大学のリンクへ行きました」

 そこから大須へ移動してきた。

「車中3泊です。サービスエリアとかで車の荷物を片づけて寝袋で。もう慣れましたね」

依頼を受ければ車で地方にも出張。数百キロの運転もものともしない

 疲労の影は見当たらない。数多くのスケーターの依頼を受け、出張して靴やブレードのメンテナンスを行なうという異例の形式をなぜ選んだのか。

 まずはそのスタートを語り始めた。

 

最初に担当したのは浅田姉妹

 橋口は中京大学に入学後、アイスホッケー部に入部した。それがスケートを始めるきっかけだった。

「部活の恒例として、練習させていただいているリンクでアルバイトをするのが習慣になっていました」

 アルバイトを経験し、卒業後、愛知青少年公園にあったスケートリンクで働き始めた。

「上司の方に、研磨などを教えてもらいました」

 懸命に学び続け1、2年が過ぎた頃、客を任されるようになった。

 最初に担当したのは、浅田舞と真央の姉妹だった。